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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

怪盗プラチナ仮面 13

   

 美園小枝子はその日、退庁後に親友と夕食を共にしてから帰宅の途についた。
 

 いつもと同じ一日が、平凡に終わるはずだった。

 

 

汐留署、そして鶴見川へ

 

「ちょっと小枝ちゃん!」

 廊下に面した交通課のドアが開いて、竹内やよい巡査が顔を出し、書類の束を抱えて戻ってくる美園小枝子に手招きした。

「どうしたの?」
「あの少年、また来てるわよ」
「少年って、あの自称『探偵の助手』?」
「そう。今日は何かお土産持ってきたみたい」

 小枝子の眉間に皺が寄り、露骨に困惑の色が浮かんだ。

「分かった。今日はきつく言ってやらなきゃ」

 そう。我らが少年探偵・松平大三郎君はもう3日連続で放課後になると汐留署に日参しているのであった。交通課の窓口で「美園小枝子さんはおられますか?」と臆面もなく尋ね、「美園に何の用でしょう?」と問い返されても、「ファンなんです!」と言ってのけたのである。末恐ろしい図太さと言うしかなかろう。

 さはさりながら、美人婦警のフルネームと所属を割り出したその行動力には侮れぬものがある。ネット上で匿名でのストーカー行為を繰り返すチキンどもは見習うべきではあるまいか。

 自分のデスクに書類束を置いてから、美園巡査はまっすぐ松平君の方へ近づいていった。後光に包まれんばかりに神々しい制服姿の彼女を、少年はどれほど熱い眼差しで見つめていたことであろうか? おお、儚く過ぎていった思春期よ! あれは幻などではなかった! あの日女神は、確かに実在していたのだ!

「お久しぶりです婦警さん! お仕事お疲れさまです!」
「私が美園ですけど。何かご用ですか?」

 普通の14歳男子であれば、「お前の記憶など頭の片隅にも無い」という美人婦警の冷淡な受け答えに、塩をかけられた青菜のごとく萎れてしまうのであろうが、そこは名探偵の助手である。つれない言葉を浴びせられてもかえって勢いづくだけの二枚腰を、この若さで既に体得しているのであった!

「ただ美園さんにお会いしたかったんです! あのホテルでお目にかかったのは僕にとって宿命だった! だってそうでしょう? 事件現場での運命的な出会いですよ? これがフラグでなくて何なんですか? これから先、僕らの前にはいろんな困難が待ち構えているのかもしれませんけど、僕は全部クリアする自信があります! なんったって名探偵の助手ですからね! というわけで、これも次のステージに進むためのアイテムなんでしょう、どうぞ!」

 松平少年は、下校後にデパートで買い求めた5000円(税抜)のルージュが入った紙袋を、おもむろに交通課の窓口に置いた。美園小枝子の麗しき唇を彩るのはこれ以外にないと中学3年生なりに考えた、若干濃い目のローズ系である。そして美人婦警の前に、恋する騎士のごとく頭を垂れ、恭しく右手で押しやったのであった。
 

 犯罪の要件が成立した瞬間である。
 

 

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