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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

探偵の眼・御影解宗の推理 【嘆きの双子】4

   

 客間に婦人の美咲が姿を現す。とても清楚で美人だ。しかし、一度口を開くとその印象は払拭する。

 特に今回の染野美幸、妹から依頼の手紙がきた。それについて嘲笑するのだ。

 京介との結婚感について話しはじめると、美咲は美幸について意外な胸のうちを話しはじめる。

 そこへ輪都が熱のある質問を投げた。それには御影も驚いた。さらに驚くひと言を平然と輪都はいってのけた。

 ほんらいの目的でもある染野美幸の遺体捜索。屋敷内の調査──。

 本筋を話すも、抵抗するように御影たちの要求は受け入れられなかった──。

 

 客間の扉が開いた。

 驚いたことに、写真に写っている人物が現れた。婦人の美咲だった。

 清楚で立ち振る舞いが静かだ。こんな女性と出会ったことはない。年齢を感じさせないほどの美を放っている。まさに女性の中の女性だろう。

 御影は祖母、母親、同年代の女性や探偵事務所の女、特に小柴もそうだが、これほどの女性はいない。比べるだけ失礼になる。

 和服姿がそういう演出をするのだろう。それでも行動や仕草の一つひとつがちがう。

 すべての女性は美咲を見習うべきだ。

 京介は現れた妻を紹介すると、席に座るように促がす。そしてことの成りゆきを話す。

「美幸から手紙ですって、ハッハハハハハハ」嘲笑するように、馬鹿げた笑いをする美咲婦人。

「ええ、まぁ…そうです」御影は動揺をみせた。あれ、イメージの撤回をしなければならない。

 美咲は小柴となんら変わりがない。結局女とは小柴の方がイメージに適しているのかもしれない。

「イタズラだと思いますか? この“美幸”さんという人物の手紙…」

 探偵は思考を働かせるために動作を一時停止した。輪都も助手の仕事の動きをとめていた。探偵の指し示す方角を見失ってしまったせいで、先へすすめないのだ。

「あのひとはむかしから、わたしたちの仲を悪くさせて京介さんを自分のものにしようとしていましたから、ついに法律に触れようとしてまで、いまだに混乱の芽を息吹こうとしているなんて、浅はかなことを」

 美咲の口調はどうも歯に衣着せぬ物言いで、どこか雲をつかむような言い方がわざとらしくて、御影は臆してしまった。

「私たちは親同士が決めた結婚なんですが…」京介が長々と話す。「でも幼少のころから美咲を妻にしようと思ってました。同じ姿でも心は美咲の方がよかった。美しく、思いやりもある。微量ですが、美幸はそれがたりていなかった、と私は美幸に対して記憶しています。美咲なら結婚については異論はなかった。むしろよかったと思ってます。反対されたら困りますからね。好きでもない相手と結婚させられて生涯どう生きて暮らせばいいかわからなくなりますよ。どれだけ広い屋敷で暮らしても、居場所がないような気がする」幼少のころからのことをじっくり聞かされた。

「好きでもない?」探偵が突いた。

「いえ」京介は動揺をみせた。「美幸のことではありません。わたしは彼女も好きだったと思います。だけど、結婚する相手に決まったのが美咲です。ただそれだけのことです」

「そうね」美咲は口もとを手でおさえながら言った。「どちらにプロポーズされても、それを選んだのは京介さん自身、わたしたちもそれに同意する思いでいました。恨みっこなし。それは口約束なだけ、あのひとは影ではよく思ってなかったと嫉妬の念が宿っていたようです。だからわたしたちの前からも姿を消しました」

 美咲は一呼吸置いて続ける。

「上下関係をはっきりさせると、わたしが上、あのひとが下。いくら双子とはいえ、わたしが後に産まれたのですから。姉はわたし。美幸は妹なのです…妹は姉のものをほしがるでしょ」

 意味深なことを言われ、御影ははっとした。

「あ、ちなみに」輪都が割ってはいった。「たとえばどのような嫉妬を普段から感じていましたか?」

 輪都の仕事の熱心さに、いちばんの驚きをみせたのは御影だった。

「え…」美咲が動じた。「その…いろいろですよ。他人様にお話しするようなことではありません。身内のことで、お恥ずかしいことです」

 輪都は煮え切らなかった。それは御影も同感。輪都が聞かなければ自分が問うことだった。一瞬の思考の混乱が御影に空白の時間をつくった。

「すみません」輪都は引き下がらない。きょうの助手はひと味もふた味もちがうようだ。「この屋敷に遺体があるようなことが手紙に書かれていますが、屋敷内を調査することは可能ですか?」

 まさか輪都が核心を突くとは思わなかった。

 この瞬間、京介、美咲、執事の古我まできょとんとした顔をして静止してしまった。呼吸まで、まばたきも、頬の筋肉、睫毛も作り物のように三体のマネキンに語りかけるような異質な空気が広がった。

 京介がつまるような声をだした。「いえ、それはちょっと、プライバシーの問題もありますし、第一、そんな遺体がこの屋敷にあるなんて、おかしいです。ご心配でしたらわたくしどもで調査しましょう…」

 とうぜんそういうだろうと輪都の問いの答えを御影は推測していた。

 御影はこの手紙の送り主の主張を確認せずに東京へ戻れるわけがない。だが、交渉の末、きょうはお引取りください、という京介の変貌たる顔つきに怖じ気づいた。

 ここで引くのは探偵として惰弱である。だが、それを貫くだけの武器が今はない。

 この手紙には、それを攻勢にでるためのものではない。経験の足りなさが、強引さを埋められない探偵は口を閉じた。

 輪都には利用価値がある。氷室の考えがはじめて理解できた。

 そのあとも押しとおす言葉は、すべて拒否、拒否、拒否されてばかりだった。

 事件の真相は御影にとってもいったん持ち帰り助言を受ける必要がある。あくまでも御影の仕事は初見的な調査までとして許されるだろう。収穫は氷室自身がどうとるかによって決まる。あとは氷室名探偵にゆだねると御影は腰を浮かした。

「輪都、ほかに質問あるか?」

「あとで」といって、助手は今回の事件は美幸という女の嫉妬めいた腹の底にたまった膿みをだすための調査だと結論に至った。

 

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