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ロボット育児日記31

   

言わなきゃな、好きだって。伝えなきゃ。

SFラヴコメディー

 

「それなんですけどね。桜木さんを応援するために、私が少しの間、ウサ子ちゃんを見ててあげようかと思いまして。どうですか?」
 にしても、篠山さん。突然来なくてもいいだろうに。
「と、言われましても。流石に篠山さんが居る前で言うのはちょっと……」
 ウサ子は幼児だから、まだいい。けど、篠山さんに聞かれるのは恥ずかしすぎる。ただでさえ、本人に伝えるのにこれだけ勇気がいるのに、罰ゲームでしかない。
「桜木さん、そんなの外出するに決まってるじゃないですか」
「篠山さんとウサ子が?」
 篠山さんは、呆れた顔で溜め息を吐きながら、俺の肩に手を掛けた。
「なにを言ってるんですか。柏木警部と桜木さんがに決まってるじゃないですか。いいですか、大人の男なんですから、おしゃれな店でビシッと決めてくださいよ」
「おしゃれな店……ですか?」
「いいですか、おしゃれな居酒屋とかじゃないですよ。ラウンジ、バーとかでです」
「は、はあ」
 俺は圭介に連れられて、一度だけ行った事のあるショットバーを思い出した。暗い空間にろうそくの炎が揺らめく、渋めのマスターが上品にシェイカーを振るアレだ。
 確かに、満嗣さんには似合うだろうが……。
「俺には似合いませんよ?」
「そんなの、雰囲気でどうとでもなります! 店とか、解ります? リサーチしてないでしょう」
「リサーチはしてませんけど、友人に連れていってもらった事のあるバーでしたら、覚えてます。多分、篠山さんのイメージに近いと思います」
「じゃあ、今から準備してください。柏木警部を誘いたい店があるので、そこに行くために友人にベビーシッターを頼んだと言えばいいので」
「は、はあ」
 篠山さんは、案外強引だなと思った。
「言っときますが、私に気を使わないでくださいね。早く帰らなきゃいけないとか、そういうことはやめてください。朝帰りでも、明日の昼帰りでも、もういっそ2、3日帰らなくても全然かまいませんので!」
 それは、流石に……。
「そんなに家を空けて、俺は何処に行く気ですか!」
 意外ととんでもない発想をする人だ。
 俺は、篠山さんの助言通り進める事にした。
「遅かったね。宅配便じゃないみたいね」
「あ、そうなんです」
「大丈夫なの?」
「はい。そのことなんですが、満嗣さんをお連れしたい場所がありまして……よかったら、これからどうですか? 奢りますんで」
「ん? 良いけど……」
「で、ウサ子の事なんですが。実は、今来てくれてるのが友人で。子供、入れない店なので。友人が、見ててくれることになってて」
「そ、そーなんだ」
 そっと、篠山さんが入ってきた。
「お邪魔します」
 篠山さんを見た満嗣さんの表情が、いぶかしんだ。
「あなた……篠山……」
「あ、似てるってよく言われますし、たまたま名字も同じなんですけど、あの有名人と違います。名前は太一です」
「そ、そう。本当によく似てますね」
「私が本人だったら、こんなところにいませんよ」
 篠山さんは、笑っていた。
「せっかくのデートですから、ゆっくりしてきてくださいね。ウサ子ちゃん、おじさんと遊んでようね」
「パパは?」
「少しだけ、お出かけ」
 ウサ子が、ぷっと膨れた。
「ウサも」
 けれど、篠山さんはポケットから小さな人形みたいなものを取り出した。
「ウサ子ちゃん、一緒に待ってようね」
「……うん」
 あの人形みたいなものが、気に入ったのかな。ウサ子は、おとなしく頷いた。
「大丈夫……みたいね。でも、いいのかな?」
 満嗣さんが、申し訳なさそうに言った。俺もなんだか、罪悪感を覚えた。
「あの、篠山さん。やっぱり、俺……」
 言い掛けた俺を止めるように、そして俺と満嗣さんを追い出すように押しながら、篠山さんは声を上げた。
「せっかく私が来たんですから、気を使わないでください。桜木さん、いつもお世話になってるお礼だとでも思って。さあ、楽しんでいらっしゃい」
 俺たちは、マンションから出るしかなく。

 

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