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「伊勢物語」シリーズ 第二話「第二十四段 梓弓」より、さよならも言えないで

   

「今度の部長、銀行から来るんだって。」

人事異動の季節、どんな人が来るのか、誰でも気になるものだ。地元企業に派遣社員として働く牧野真由美は、女性社員の溜まり場、給湯室でそんな噂を耳にした。

「どんな部長だろうと、派遣社員には関係ないこと」

真由美はそう思ったが、30数年前に別れた初恋の人は銀行に就職したと聞いていた。

まさか、そんなこと、ありえない

だが、新しく着任した部長は、その初恋の人と同じ、首をクイッと捻る癖があった。

そして、その部長から偶然に声を掛けられた時、それは耳に記憶のある声だった。

偶然に再会できた二人、午後のコーヒータイムを共有し、いろいろ語りあっていたが、それは長くは続かなかった・・

「『伊勢物語』第二十四段 梓弓」より」、「さよならも言えないで」です。

 

「『伊勢物語』第二十四段 梓弓」より

<原文>
昔、男、片田舎に住みけり。男、宮仕えしにとて、別れ惜しみて行きにけるままに、三年来ざりければ、待ちわびたりけるに、いとねむごろに言ひける人に、「今宵あはむ」と契りたりけるに、この男来たりけり。「この戸開け給へ」とたたきけれど、開けで、歌をなむよみて出だしたりける。

 あらたまの三年をまちわびてただ今宵こそ新枕すれ

と言ひ出だしたりければ、

梓弓ま弓槻弓年を経てわがせしがごとうるはしみせよ

と言ひて、去なむとしければ、女、

 梓弓引けど引かねど昔より心は君によりにしものを

と言ひけれど、男、帰りにけり。女、いとかなしくて、後に立ちて追ひ行けど、え追ひつかで、清水のある所に伏しにけり。そこなりける岩に、指の血して書きつけける。

 あひ思はで離れぬる人をとどめかねわが身は今ぞ消え果てぬめる

と書きて、そこにいたづらになりにけり。
 

<勝手訳>
昔、「都会に出て立派になるぞ!」と言い残し、恋人を故郷に残して出ていった男がいました。しかし、その男は3年経っても帰って来ませんでした。
恋人は待ちくたびれ、「結婚しようよ」といい寄る男に「うん」と言ってしまいました。

ちょうどそんな時、「私だ。帰って来たよ。」とインターフォンが鳴りました。

待ち焦がれた男性です。でも、手遅れです。

「ごめんなさい。あなたを待っていたけれど、待ちきれませんでした。他の人と結婚することになって・・」

悲しみを堪え男は答えます。「どうか、その方と幸せになって下さい。」

女も返します。「身は捧げても、心はあなたとずっと一緒です。」

切なく辛い別れ。叶わぬ恋路に、女の命は尽き果ててしまいました。
 

 

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「伊勢物語」シリーズ 第1話第2話

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