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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

怪盗プラチナ仮面 15

   

「祭壇に血を!」
 

 百年の時を越えて「パリの女」は降りてきた。

 狂気をはらんだ叫びに、森田と松崎は翻弄される。

 

 

松本市郊外

 

 天井を横切って、二本の注連縄が張り渡されている五角形の板敷きの広間。左右に置かれた燭台の蝋燭で浮かび上がるほの暗い空間の中央に、白装束一枚を纏い、帯を結んだだけの下平瑞希がいる。

 瑞希は五角の樫の棒を天につき立てるように両手で支え持ち、片膝を突いて目を閉じている。その正面には、於来之木島で押収された仮面のレプリカと、真行寺内蔵介に届けられた挑戦状が「よすが」として並べられていた。

 床に突き立てた樫棒に額を押し付けた姿勢で、瑞希は巫呪ふじゅを呟き続けている。90歳の老婆が乗り移ったかのように、重いしわがれ声で呪を唱える瑞希を、警視庁の森田広報課長と松崎警部が真正面に正座して見守っていた。

 録画・録音や写真撮影は論外のこととして本家に拒絶され、臨席者も二人に制限された。「この条件を受け入れられないなら儀式を取りやめる」と言われ、警察も従わざるを得なかったのである。
 

 巫呪が10分ほど続いた頃、ようやく状況が動いた。瑞希が樫棒を持ち上げ、床をひと突きする。ごとりという音が堂内に響き渡った。続いて一回。さらにもう一回。

 瑞希が、樫棒を握った手からゆっくりと力を抜いていく。手が完全に離れる。なぜなのか、長さ3メートルはあろうかと思われる樫棒は突っ立ったまま倒れもしない。根が生えたように、堂の中央に直立しているのである。

 両膝を突いて後ずさりした瑞希は、しばしの間頭を垂れて目を閉じたまま呪を唱え続けていたが、やがて口を閉ざした。堂内に静寂が訪れた。

 静寂の中、巫女がゆっくりと目を開き、頭を上げる。
 

 頭を上げた巫女は一変していた。ついさっきまでの控え目な主婦はどこかへ去り、尊大で我の強そうな女が巫女を支配していた。ようやく儀式が佳境に入ったらしいことを、広報課長と特殊盗犯係長は感じ取った。

 女は男たちに交互に視線を走らせ、早口に何かを喋った。一瞬、二人の男には意味不明な呪文のように聞こえた。当惑する男たちに、女が苛立ったように声を張り上げる。

 得心がいったらしい広報課長が、松崎警部に「これはフランス語です」と囁いた。

「『何をしている?(Qu’est-ce que tu fais?)』と尋ねているんです」

 フランス語に堪能な森田課長は、女の目を見つめて答えた。「Nous sommes un agent de police au Japon(我々は日本の警察官です)」

 女が「Japonais(日本人か)」と鼻で笑った。

「私に何の用だ?」

 今度は日本語だった。自国語を聞いてよほど安心したのか、松崎警部が大きく息を吐いて腰を持ち上げ、身を乗り出す。松崎は押収品の仮面を指差した。

「私は警視庁捜査三課の松崎といいます。その、マスクに見覚えはありますか」
 

 

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