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ラブストーリー

LOTUS 〜My Hero〜

   

完璧からはほど遠い、兄のことを思う。
それでも、瑞穂にとって「大」がつくほど好きなのは、やっぱり稔だけなのだ。

LOTUS』 ―稔×瑞穂―
≪光輝*高等部1年生*7月≫

Illustration:Dite

 

 かっこいいなんて言ってあげないけど。
 口に出しては、絶対に言ってあげないけど。
 一生懸命に走ったお兄ちゃん、すっごくかっこ良かったからね。

「まあ、陸上部がインターハイに出場ですって? ということは、全運動部のなかで、4年ぶりの快挙になるわね。素晴らしいわ」
 陸上部が誇る学園きっての名スプリンター・高等部1年3組の沢渡稔が、地区予選で自己新記録となる好成績を叩き出してインターハイへの切符を手に入れた日の放課後。
 生徒会室でその一報を受けた「無敵の生徒会長」こと野々宮花織は、大会要綱と競技日程の書かれたファックスの書類を手に、満足そうに微笑んだ。
 現在は「やたらとカッコかわいい制服の進学校」として知られているこの学園だが、その前身である男子校時代は文武両道で鳴らし、甲子園に出場したこともあるのだという。近年では創作ダンス部の躍進が目覚ましいのだが、れっきとした運動部でありながら文化的な側面が色濃いため、文武の「武」でも成果を上げているというイメージにうまく結びつかない。
 よって、テニスやサッカー、バスケなどなど、一般的なスポーツ競技を行う運動部がイマイチぱっとしないなか、陸上部のインターハイ出場は久々の快挙なのだった。
「男子が100メートル、女子が走り幅跳び。知らなかったわ、陸上部には優れた女子ジャンパーもいたのね」
「やっぱ指導者がいいんじゃないですかね、うちの陸上部は。小田監督は、OBコーチ同士のなかでも信望が厚いという話ですし」
「良き卒業生は学園の宝ね」
「ええ、まったく」
「これなら来年は、中学総体にも期待できるかしら」
「そうなることを祈ります。ともかく今年は隣県での開催ですから、応援団の移動なんかもラクでいいですよ。ちょうど男子100メートルと女子走り幅跳びは、同日開催らしいですし……もっとも、陸上競技に、いわゆる応援団の応援が必要なのかはわかりませんけどね」
「野球やサッカーの応援とは違っても、横断幕の設営やら何やら、少しはやることがあるはずよ。あとで、前坂応援団長と話を詰めましょう。さて、そうとなったら、生徒会関係からも誰か応援要員を出してあげたいのだけれど」
 そう言いながら、美術部・漫画研究会・写真同好会が毎年合同で作って頒布している、月めくりの壁掛けカレンダーに目をやる。続けてカレンダーの隣にある、生徒会関連の行事予定が書かれたホワイトボードに目をやって、花織がふと表情を曇らせた。
「あら、ちょっと待ってちょうだい。沢渡くんたちが出場する大会の2日目は、リーダー研修の最終日とバッティングしているわ」
「あー……本当だ。そうですね」
「最終日はワークショップの報告会でしょう。これでは、執行部もクラス委員も身動きが取れないわ。棚橋先生にも、リーダー研修のほうにいて頂かないと困るのだし」
 花織は弟の大樹と同じ、意志の強そうな眉をひそめながら、中等部1年5組のクラス委員長を務めるツインテールの美少女・沢渡瑞穂の顔を思い浮かべた。
 沢渡兄妹の仲の良さ――というか沢渡稔の妹溺愛っぷりは、学園内でも有名だった。ジャージ姿&自慢の脚力で校内を疾走しては、愛妹の顔を見るべく中等部の校舎に出入りしているのだ。
 現に中等部校舎の1号館で、「おーい、みっちゃーんv」の声を聞かない日はないのだという。そのせいで、辛島ツインズ率いる規律委員会から、ずいぶん目をつけられているという話だった。
 自分も弟の大樹をかなりかわいがっているつもりだが、兄と姉では、弟妹に向ける愛情の、本質的な部分とやらが少々違うのかもしれない。いずれにせよ、沢渡稔がインターハイの切符を手にしたら、生徒会からは瑞穂を応援要員として派遣してやろうと思っていた花織は、思案げにため息をついた。

 

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