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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

探偵の眼・御影解宗の推理 【嘆きの双子】10

   

 誰かの悲鳴で目覚める朝。いきなりのことで御影もパニックになっていた。

 廊下にでてすぐに声の出どころを探す。通路を走りながら人の気配を感じていたが、途中で京介と遭遇した。

 京介はおそらく台所だといった。指示に従うと的中した。

 勝手口の扉に挟まれている変わり果てた紳士の姿に驚愕した。

 男は死んでいる。そして、すぐそばには凶器をにぎりしめている犯人が…

 

 御影は客室のドアノブを握り扉を開いた。廊下へ出るとドタバタと走る足音が聞こえる。

「なんの騒ぎだ」御影は、廊下を左右に首を振る。声の方へ聴覚を働かせようと耳の裏がわに手のひらをあてソナーのように音の出所を捉えようとした。

 御影の精神は、本気状態になると一瞬で感覚が数段あがる。それは探偵の眼だけではなく、すべての感覚をあげて捉えにくい情報を得ようという働きをもつ。

 左がわに人影が通った。視覚も広がり些細な違和感となって捉えている。

「なんですか、いまの…御影さん?」隣の部屋にいた輪都が扉をこそっと開けて顔をだした。

 御影は輪都の恐怖に震える声を無視してその影を追いかける。

 あちこちから声が聞こえる。悲鳴のような声がちいさく響いた。

 広い屋敷なのによく響く声だと思った。

 むやみやたらと走っていたが途中で京介と遭遇した。

「探偵さん、いまの叫び声がきこえたのですね」

 御影は京介を観察した。探偵は洞察する癖が身についていた。京介は無関係だと即推理した。

「ええ、どこからかわかりますか?」

 京介はうなずく。「おそらく台所のほうだ」

 長年住み慣れた屋敷だから、その声が轟いた方角くらいはわかるということ。

 御影と輪都がいた部屋から対極にあるところだ。ずいぶんと離れていたというのに声がとどくものだ。おそらくこの屋敷の造りが反響しやすいのだろう。

 台所は広間のさきにある。さらに裏の勝手口もあり、その扉が少し開いている。

 御影の眉があがった。すこし開いた状態が、異常だった。

 人の足首を挟んで閉まらない。黒の革靴を磨きあげたプレーンシューズ。誰のものかはっきりとわかる。こういう代物を履くのは屋敷内では限られている。

 御影はドアをゆっくり開けた。左足首がドアに挟まれた状態のまま、全身は外の整備された石造りの通路にあおむけで倒れていた。

 見開いた目。瞳孔は開き指先はピクリとも動かない。足首の痛みまであの世で治療せねばならないようだ。殺傷箇所は後頭部。鈍器で殴打されている。

 御影が遺体に近寄り検死のまねごとをしてみせる。医学書を多少なりとも読み焦ればわかるものだ。

 パソコンを覚えられないのは、こういう事件に必要な知識を吸収するための勉学に時間をとられすぎていたからだ。

 現場を目の当たりにしたら覚えたことすべてが吹っ飛んでしまいそうだが意外と冷静に一頁一頁捲って探偵なりの検死の見定めをおこなった。

「古我さん、亡くなってます。現場保存のためこのままでお願いします」

 御影はついに戦慄な殺人事件デビューを果たす。

 京介は遺体とは異なったほうをみている。

 ドアを開けたときにすぐに御影も気づいていたが人命を急する必要があった。だから後回しにしていた。見るからにして逃走しそうにないからだ。

 犯人は目の前にいた。

 横たわる古我のそばに家政婦の長柄が腰を抜かしてすわりこんでいた。手には凶器となるガラスの灰皿をもっていた。台所にある灰皿だという。とても丈夫そうで硬そうなガラスの灰皿だ。一発頭に食らわせたら女の力でも男を死に至らしめることはできるだろう。ガラスの灰皿からは血が滴っている。

 女性のような悲鳴は古我があげたものだったのか、それとも長柄が執事をしとめるさいのちからをこめるための気合だったのか。いまではそれはどちらでも関係なくなっていた。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
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