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ハートフル

モモヨ文具店 開店中<34> ~直くんの独立 前編~

   

 
「どうでした? 企画書。自分なりに作ってみたんですが……」
『面白かったです。月世野でやりたいということが伝わってきましたよ』
 月世野で、というところが引っかかる。たしかに月世野ベースになっているが、自分としてはどこでも商売ができる形を取りたかった。
 その晩、直くんは『四季』の売れ行きの報告と一緒に、自分の進路診断もお願いしていた。
「やっぱり東京に行った方がいいですか? 地方だと難しいこともあるでしょうし」
『うーん、そうですねえ。メリットはありますが、なにをやりたいかによるんですよ』
 東京まで在来線で二時間半という地方都市の日の出県月世野市は人が入り乱れて誰が誰だかわからないような東京とはまったく異なる顔を持つ。地域共同体は未だに崩れていないし、松野沢に比べればマシだが新参者、外国人を珍しがる。この地で育った人間は慣れているが、新しいことを始めようとするにはとんでもない労力がいる。その労力は、きっと東京でも感じるだろうが、風当たりの強さという点では、月世野は東京より勝る。
『わたしはもともと東京の下町育ちだったのでロケットプラネットを立ち上げるときもここを選びました。物がそろいやすいとかメリットはたしかにあるんですけど、無関心が強かったですねえ。本当に認めてもらうまでお客さんがついたり離れたりが何度も起きたり。精神的にきつかったです。高橋さんの独立企画書を見ると月世野ベースで仕事をすることを考えているし、なにより地元でしょう? そこが強みになるんじゃないかなとわたしは思います』
 コーヒーを飲みながら直くんは釈然とせず、うなった。
「僕もそう思っているんですけど、東京という場所にも憧れがあって、企画書書き直してもいいかなあと」
『あ、それならやめたほうがいいです。東京は』
 ぴしゃりと言われて直くんは面食らった。
『高橋さんの企画書は地元ベースだからあれだけの情報量を持っているんです。そこはとても貴重です。でも、東京は未知の場所でしょう? もちろんいろいろ話を聞くだろうけど、予測だけで企画書書いても実際はまったく身動きできなくなるなんてことたくさんありますから。それに、なにをしたいかがわからなくなるかも』
「というと?」
『目移りが激しくなるんですよ。あれもしようこれもしようとなるんです。一時期……借金作っていた頃のわたしがそうでした。情報過多の都市だから。闇雲に動くと失敗すること間違いなしです』
 おすすめしませんという綾乃さんに直くんは苦笑いした。
「企画書はそのままの案でいこうと思いましたよ。借金背負って返せるだけの自信がありません」
 綾乃さんが笑って返した。
『正式に独立したときは教えてください。モモヨ文具店さんともそうですが、高橋さんとも可能なら取引したいから』
「ぜひ」

 

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