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ハートフル

モモヨ文具店 開店中<34> ~直くんの独立 前編~

   

 
「なにが〝ぜひ〟なわけ?」
 琉華の声で直くんは我に返った。半纏を羽織った琉華は気持ち悪っというような顔をしている。いつもどおり自動で足が動いて台所から戻り、ストーブの天板に薬缶を載せていたらしくて、あ、いや……と直くんはへどもどした。
「この店からね、独立……一人になるんだよ、僕」
「ふーん」
「で、いろいろ知り合いに聞いてたわけ。それで一緒に仕事をしましょうって言われて嬉しかったわけ」
「だから声がでんの?」
「そんなもんじゃない? 人間なんて」
「おじさんとおばさんが……」
 なにか考えようとしているが上手くまとまらないのか、サインペンで何度も頭を小突いた琉華は、しまいには諦めて椅子の背にのけぞった。
「琉華ちゃんてよぶんだ、あたしのこと。なにって聞くと、ぜんぜんふつーのことなの。お腹減った? とか一緒に食べようとか、一緒にどっか行こうとか、なんつーの? そーゆーおせっかいっつーか。そういうこと。変じゃね?」
「声かけるのが変てこと?」
「うん。別によくね? ほうっておいても」
 発生したコミュニケーションは異種族過ぎてわかりづらいものだった。
「放っておいて欲しいの? っていうわけじゃないのか」
「うーん、おにーさん、さっき思い出して話しながら笑ってたじゃん」
「え、笑ってたの?」
「うん。そーゆーのがおじさんもおばさんもあるんだわ。琉華ちゃんとかにこにこ笑いながら髪なでてきたりすんの。わっかんねー」
「わかんねーかぁ」
 そうかぁと作業台に戻ると、ちらと琉華の書いていた文面が見えた。
 すっげーこまったという文字に、彼女の異種族間ともいえるコミュニケーション不全が見えた。
「すっげー困ったの?」
「わかんねーから。いろんなことが。おじさんとおばさんがこうしてくれるのも、なんか違う気がするし」
「そこはきっとモモヨさんたちの領域だから琉華ちゃんたちは考えなくてもいいと思うよ。でもって、そういう人たちだから。後ろにいる人たちは。面倒見すっごくいいよ。かくいう僕も面倒みてもらったからね。まるっと抱え込んでも全然平気な人たちなんだよ。モモヨさんにもそう言われたでしょ?」
 しばらく考え込んでいた琉華が、やっぱわっかんねーと言うと、もう寝るわとさっと席を立って行ってしまった。
(わっかんねーなりにいろいろ考えてんじゃん)
 考えることも疑問を持つことも生きることの一歩目だ。
 それができてるなら琉華は大丈夫だ。
「夜が長いなあ……」
 それからモモヨさんに呼ばれたのは深夜も深夜午前三時過ぎのことだった。

 

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