幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ハートフル

モモヨ文具店 開店中<34> ~直くんの独立 前編~

   

 
「ごめんねえ。ばたばたしちゃって。タカ、二階に行ってちょうだい」
「ああ、いいですよ。聞いてもらっても」
 直くんが言い添えると、モモヨさんはダメよと厳しかった。
「タカはね、今のモモヨ文具店の人間じゃないの。かふぇ みょうがの人間なのよ。けじめだけはつけておきましょう」
「というわけだから、俺は先に寝かせてもらうよ。遅くまで長引かせて悪かったね」
 じゃあ、お先にというタカアキさんに会釈すると、直くんは「大変ですねえ」とこぼしてしまった。モモヨさんが、「直くん、今日、そればっかり」と笑うと、「さて」と切り替えた。向かい合う。
「独立計画書見せてくれる?」
「お願いします。まず僕がなにを目指しているか、そのための資金、業務体系など総合的に判断してください」
「保留だったら、どうする?」
 モモヨさんが意地悪く上目遣いに見た。
「それはないです」
 きっぱり言い切る直くんに苦笑いすると「じゃ、読みます」とちゃぶ台に広げて読み出した。
 番茶を二杯飲み干したところで、モモヨさんはふんふんとうなずいて読み切った。
「文具の自動販売機ね。面白い案だと思う」
「自販機はジュースと同じ物を使います。二段目と三段目に定番商品。一段目に新商品という形を取ります。掛けカバーの件でツテができましたので県内の高校や中学には話をつけてます。忘れ物をした学生さんでもいいし、新しい物好きの学生さんでも良いから安い価格帯でお茶を買うように買ってくれればいいと思ってます」
「でも、それじゃあ、あんまり収益出ないよ」
「ええ、なので駅ナカや通学路にも置いてもらいます。自販機の設置許可だけあればいいので。鉄道会社にも許可はもらってます」
「それが一点ね。で、もうひとつは文具工房と。こっちは?」
「これは阿部さんからアイディアをもらいました。名前はまだ仮ですが、文具工房タカハシという事務所があってもいいんじゃないかと。こちらは自販機の荷物置き場と万年筆のオーダーメイドと、カスタマイズをしようと思ってます」
「うん、いいね。……資金も計画性も問題なし。事務所見つかった?」
「二、三件良い物件があります」
「保証人はわたしがなるよ。これで賃貸料金滞納したら大変だから前払いで一年分くらい払っちゃいなさい」
「そうします。ありがとうございます」
「おめでとう。――長かったね」
「そうでもありませんよ。早いほうじゃないですか? いろいろ学ばせてもらいました。ありがとうございます」
「いいえ、こちらこそ。年末独立ってあるけど、閉店までいてくれるの?」
「無理でなければなんですが」
 なぁに言ってるの! とモモヨさんが身を乗り出した。
「いまさらわたしひとりにやれっていうの? いてくれなきゃ困るよ」
「そう言ってもらえると助かります。そうそう、新装開店のときはお花贈りますよ。文具工房タカハシ 高橋 直よりって」
 仮の名前ですけどねと笑うと、待ってるよと返ってきた。
「あ、すすき野に在籍は続けます。そう言えって関口さんが」
「グッチーめ。意地汚い」
 夜は深々と更け、直くんの独立は正式に年末と決まった。
 それからが大忙しの毎日だった。
 
 

直くんの独立 前編 CLOSED

 

-ハートフル
-, , , , , ,


コメントを残す

おすすめ作品

モモヨ文具店 開店中<16> 〜モモヨさんと10B少年 そして打開策!?〜

春日和

モモヨ文具店 開店中<14> 〜モモヨさんとタイムリミット〜

モモヨ文具店 開店中<30> 〜三者三様〜

モモヨ文具店 開店中<19> 〜なくなってない物〜