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学校にも家庭にも居場所がなく、かと言って仕事に情熱を燃やしているわけではない教師、打田 博は、二十日間の有給休暇を取り海外へと向かった。

発展するアフリカにあって未だにありのままの自然を残したその土地は、国立公園という名目以外に、保護され警戒心の薄くなった動物たちの「狩り場」としての顔があった。

脅威とは言えない草食動物たちをただ快楽のために次々と撃っていく打田たちだったが、順調に見えたツアーに異変が……

 

「二十日間もの有給、ですか。打田先生にしては珍しいですな」
 空港のロビーで飛行機を待っている打田 博は、北海道に里帰りするからと車に同乗させてくれた里口に話しかけられた。
 里口は人好きのする笑みを浮かべて、長年の同僚をねぎらう。
「学校の方はお気になさらず、楽しんできて下さい。送別会も卒業式の後に入れておきましたし、多忙ということで参加を見合わせる方も少ないはずです」
「多忙を理由にできないから、やむなく出てくる、というだけではないですかな。教頭ならばともかく、私に対する皆の感情というのは、その程度のものですよ」
「あはは、せっかくの旅行前にナーバスになるのは良くありませんよ。ともかく、これからは定年なのですから……」
 里口は曖昧に笑いながらであったが、打田の言葉を否定できなかった。
 同年齢の同期を悪く言うつもりはないが、打田を評価しかねる他の教職員の気持ちも理解できるからだ。
 生徒に対しては指導要領にある内容以上のことを教える情熱を持たず、部活にも積極的に関係せず、かと言って偏差値や大学合格者数を引き上げようというスタンスでもない。
 奥さんや子供との会話もろくになく、趣味にハマっている噂も聞かない打田は、よく言っても掴みどころがなく、もっと正確に評するなら不気味でしかなかった。
「そうですね、教務職にも就けず、嘱託として現場にも残れませんでしたからね」
 打田は珍しくやや毒のある笑みを浮かべたようだった。里口は気を悪くはしなかったが、言い訳する気も起きなかった。
 彼を契約外の期間まで居残らせたくないというのは上層部の一貫した結論である。
 職員の出入りが極めて少ない私学だからこそ、打田よりもずっと有能な「新しい血」を入れることは急務だったのである。
―●●民主共和国行き、第五百便に搭乗される方は第一番ゲートまで……―
「私の方が先になりましたね。それでは、失礼します」
 アナウンスを聞いた打田は里口に丁重に、しかしどこかいそいそとした感じで頭を下げ、早足で歩き去っていった。
 その所作は普段の彼からすればややせわしないものだったが、旅行、それも海外への旅行前となれば、不審を抱く理由とはならない。
 里口は持っていた文庫本に目を落とし、間もなく自分が経験する方の空の旅に思いを巡らせていた。

 

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