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スペシャル・ハンティング

   

「それでは、ここで夜明かしをしましょう。座席で一夜を、というのではきついので、テントを用意しました。どうぞ……」
 すっかりと日が暮れたところで車が停まったので、打田たちも厚意に甘える形で外に出て、テントに入った。
 もちろん、後ろに詰めているスタッフたちによって、既に設備は完備されており、食事やビールの類も充実している。
 暗視用の双眼鏡やスコープもついているので、夜間でも変わらず狩りを楽しむこともできる。
「しかし、ここは本当に最高だよな。隣の鳥や猫がうるせえんで、もう正直限界だったんだけどよ、このバカンスがあるから一年頑張れるよ。ま、クニじゃあ撃てねえのは不満だけどな」
 小太りの男がビールを片手ににやりと笑ったところで、打田も同調するように言葉を発した。疲れの分酔いも早く、本音がつい口をついて出てくる。
「まったくです。学校でダメな連中はいつまでもダメ、我々のような優れた存在が『適切に対応』できるようにすればいいんですよ。買い食いはする、授業中に私語を述べる、果ては私のことをバカにしたような目で見てくるんですから、もう何度頭を撃ち抜いてしまおうかと思っていたぐらいですよ。あの若いだけで無価値な脳みそを飛び散らせてやりたかった。我ながら、よく定年までもちましたよ。それもこのハンティングのおかげでしてね、ははは……」
「そうだっ、俺たちは何も悪いことはしていない。大体、活用できない動物を保護だとか何とか理由をつけて、生かしておくこと自体間違ってるんだ。それよか、俺らのストレスの方が、……ほほう、まだイケそうだな。出てみようぜ」
 かなり酔った調子で気勢を上げていた小太りの男は、わずかな物音に気付いたらしく暗視グラスをかけた状態で外に出た。
 同様の装備をしてついていった打田には、その理由がすぐに分かった。
 昼間に射殺したのよりも一回りぐらい大きなシマウマが、茂みの中にたたずんでいるのが分かった。
 本来であればとても人の目には捉えられそうもないが、一つ数十万円以上もする暗視レンズの前では隠れていないも同然だ。
「ボスですかね、さっきの連中の」
 打田は、膝立ちで銃を構えながら声を落として聞いた。
「分からん。だが、奴が不幸だってのは確かだ。この六十口径で頭を吹っ飛ばされるんだからな」
 小太りの男は立ったままの姿勢で銃の撃鉄を起こしながら、「構わないよな」と目で合図を送ってきた。
 打田はためらわず頷く。特注の大口径銃で遠くの獲物を仕留めるなど不可能だと知っていたからだ。恐らくとてつもない方向に弾は外れるが、銃声を聞けばシマウマは驚き足をすくませるだろう。
 そうなってから細かく狙いをつける必要がない散弾で仕留めてやればいい。
「へへっ、そんじゃあ行かせて貰うぜ……!」
 打田の気も知らずすっかりいい調子になった小太りの男が引き金に指をかけた瞬間、物凄い音が響いた。
 その銃声は六十口径ならではの強烈なものだったが、打田の関心は別のところに向いていた。
「あっ、あああ……っ!!」
 今まさに特注の銃を構え獲物を仕留めようとしていた男の体が、打田の傍らで人形のように転がっていた。
 最高級の暗視グラスをしていたことは、彼にとってはむしろ災難だった。
 緑色を基調にしたモノトーンではあるが、はっきりと砕けた頭蓋から血を噴き出した死体を目にしてしまったのである。
 かろうじてその場で吐くことだけは避けた打田だったが、冷静でいることなどできない。唯一の身を守る手段である散弾銃を抱え、衝動のままに叫ぶ。
「助けて、助けてくれっ! 死んだっ! 彼が死んだ! ああっ、頼む、頼むよ、何とかしてくれ!!」
 しかし絶叫にも関わらず、引率の若者は姿を見せない。
 自分たちのすぐ後ろからついているはずのトラックやスタッフもいなくなっており、自分以外の人間の気配はすでに感じられない。
「ななな、何、が……!!」
 打田は訳も分からないまま散弾銃を構えスコープを覗き込もうとした。だがその瞬間、ビシ、という小さな音とともに、彼の意識と視界は崩れた。

 

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