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スペシャル・ハンティング

   

「素晴らしい腕前でございます、伯爵殿」
 二人の銃を持った密猟者、だった存在が血を噴き出した肉塊と化した現場から七百メートルほど離れた場所にある巨大なキャンピングカーの中、忠実な執事の賞賛を聞きながら、若い男は銃座から一歩離れた。
 彼の身を包んでいるのは、考えられ得る中では最高のスーツやアクセサリーであり、これを揃えるだけでもかなりの経済力を必要とする代物であるが、若者はまるで普段使いの背広のように完璧に着こなしていた。
「素人であるが故に、予想外の行動を取ってくるかと思ったがな」
「ご心配にはあたりませんでしたね。もっとも我が方は戦車並の装甲、連中が持っているオモチャでは傷もつきませんよ」
 執事の言葉に同調するように、何人もの逞しい男たちが頷いた。 彼らは伯爵と呼ばれた若者の護衛だが、今は手持ちの狙撃用ライフルを、密猟者たちがいた森の中に向けている。
 主人が外した時の備え、というわけである。もっとも、密猟者たちの猟銃はせいぜい数十メートル、こちらは一キロ先でも撃てるような超高性能品。勝負以前の問題ではある。
「しかし、いい獲物だった。うだつの上がらない日常を武器も持たない動物にぶつけ、違法な密猟に邁進する連中。ふふふ、仕留めても誰も惜しまないような気さえするよ」
「周囲の評価はどうあれ、正当防衛ですからな。彼らは他人の土地に武器を持って入ってきた。そうした侵入者にはあらゆる手段が合理化される、と言うのがこの国の法律であります」
「純金や宝石で動いてくれる大統領で良かった。おかげで私たちは合法的に『スペシャル・ハンティング』を楽しめる。武器を持った悪漢どもを狩るという、な。ふふふ、普段は善人でなければならない身なのでね、ストレス解消も大胆にいかなくては」
 銃を執事に預けた若者は、差し出されたワイングラスを手にし、極上の勝利の美酒を味わった。しかし、まだ満足してはいない。
「翌日の予定はどうだ? あの引率者はうまくカモを引っ掛けてくれたのか?」
「万事準備はできております。次は、普段は善良ながら暴力衝動を抑えられないところがある男たちでして」
「ほほう、それはますます素晴らしい。一撃で吹き飛ばしてしまってもいいし、腹を撃ってしばらく連中の『ダンス』を眺めるのもいいな。ふふふ、まったく極上の遊びだ……」
 伯爵と呼ばれた男は、にやりと表情を歪めてみせた。
 
 

≪つづく≫

 

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