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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

探偵の眼・御影解宗の推理 【嘆きの双子】11

   

 長柄の震える声が図星であることを裏づけている。「知っていたのね。さすが都会の探偵さんはすごいわね。若くても優れて…そう、あなたのいうとおりよ」

 御影はさらにつづけた。「それと同時に15年前、城里家に誘拐事件が起きた。その誘拐事件と古我さんは過去に因縁があり、あなたの旦那さんも関係があった──」

 長柄はうなずく。「そうです。城里家で起きた誘拐事件によって、私の家族は散り散りになってしまった。やり方をまちがえたかもしれない。でも、その原因を作ったのが古我だった…」

 京介と美咲は椅子に腰深く座っていたが落ちつきがなくなった。顔色まで悪くなっていた。

 双子のご子息も目がきょろきょろと動きまくっていた。

「誘拐だと…」望月警部補はきびしい視線をむけていた。

「その誘拐事件のことならしっているが」速見警部はさすがにしっていたようだ。

 御影は客間をゆっくりと歩きはじめた。「そうでしょうね。城里家はここいらでは有名な一族ですからね。山をおりた町では、多くの飲食店、病院、ホテル、不動産、様々な施設もそうです。すべて城里家の傘下であるとわかっております。だから昨夜のパーティーもそういった関係者が家政婦、執事、コックも同様にきていたようですが、なぜ長柄さんがいなかったのか、ひじょうに不自然でした。長年この屋敷の家政婦として従事していたのに、肝心なパーティーの前日と当日をあけていたのはおかしい。山梨県のぶどう園にいっていたといってましたが、本当なんでしょうか」

 長柄は眉をしかめて強張った顔をむけた。「それはほんとうよ、山梨県甲府市にいってました。ぶどう園にうかがった写真も携帯に保存してあります」

 御影は不敵な笑みを浮かべた。その顔はとても得意げで、だれがみても癇に障る笑みだった。

「探偵、どういうことだ、なにがいいたい」望月警部補が割って入った。

「長柄さんはいま、とんでもないことを口にした。山梨県の甲府市へいったと自白しましたからね」

「むしろ逆だろ、しっかりと甲府市へ行ったといっている。ぶどう園の関係者に問い合わせれば証明される。てか、殺されたのは古我だ。いまはぶどうなんて関係ないだろ」望月は声を荒げた。この不毛でオアシスのない枯渇した会話に苛立っているようだ。

 御影は目を閉じながら望月警部補のことを無視して自分の推理を話しはじめた。

「15年前に誘拐事件が起きた城里家ですが、長柄さんはいっさいかかわりはない。なら、なぜ古我が殺されることになったか。その動機は誘拐した犯人の中に古我がいたからです」

「なんだと」速見警部は御影をにらんだ。

「待て、あの事件はたしか──」望月は記憶力があまりよくせいか、当時の概要が浮かんでこなかった。

「ふふふっ」御影は嘲笑するように笑った。望月警部補の筋肉でできた脳みそを揶揄するような笑い方をした。

「探偵、失敬だぞ」部下の失態を庇いだてする速見警部が代わって誘拐事件の概要を話しはじめた。「あの事件は解決しているときいている。しかも、要求された身代金二億円のうち一億円は犯人が持ち運ぶことができなかった。ご子息もいま我々の目の前にいるとおり無事にもどってきた。犯人は三名だが、追撃隊によって山奥の森の先へと追い込んだ。背中は崖だった。川だけが流れていた。高さは20メートルある。おちたら命はない。これで誘拐犯は一網打尽で逮捕というところまで追い詰めた。しかし、犯人は抵抗した。追撃隊は反動で引き金を引き、一名が銃弾によって射殺。一名は足に撃たれてその場で崩れて逮捕。最後の一人は全身に銃弾をうけたが後ずさりして崖に落下した。その後の行方は捜索したが発見には至らず、だが、先も言ったが20メートルもある高さから落下して助かる保証はないと結論がなされた…これが誘拐事件の概要だと思ったが、ちがうか」

「さすが警部、博識。事件の概要は完ぺきですね」御影は称賛した。

「それでいて真実はまるで見えていないですけどね」輪都が口を挟んだ。しかも貶すように。

 眉をゆがませ貧弱そうな若者をにらみつけていた。クールな警部がはじめてみせる顔だった。

「輪都、すいません。正直なやつなもんで」御影も失礼だった。

「なにが見えていないというのかね」速見警部は咳払いをひとつしてからたずねかえした。

 御影はほくそえみながらいった。「射殺されて亡くなった誘拐犯は、長柄さんの旦那さんだったんですよ」

 速見警部は動じない顔だった。しかし、ほかの者は静かに目を見開き開いた口もふさがらず、長柄に直視した。

 

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