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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

怪盗プラチナ仮面 17

   

 
 床に伸びていた増子刑事部長が意識を取り戻した時、頭の横には豆粒大の発信機──美園小枝子に渡した物──が落ちていた。周囲では、幻覚症状から立ち直った課員たちが被害状況の確認を始めていた。

 窓に目を向けると、外の景色は何ら変わりなく、霞が関一帯は晩春の穏やかな陽気の中にあった。

 幻覚のショックが尾を引いたままの増子は、机に手を置いて体を支えつつ、蹌踉と窓際に歩み寄った。やはりガラスには銃弾を撃ち込まれたような小さな穴が開き、ひび割れが放射状に走っていた。

 増子は手に持っていた発信機を見つめた。既に機能を停止しているようだった。
 

 通信指令センターは一時的に機能不全に陥ったが、30分程度で復旧した。女性職員2人が気を失い、7人が体調不良を訴えた程度で、被害は捜査一課より軽微だった。
 ただ警視庁の外では、霞が関から永田町にかけて首都高と一般道が広い範囲で麻痺状態となり、車外へ出て為すすべもなくうろたえる者、路上に嘔吐する者などで混乱の極みに達した。またパニック状態の歩行者が難を避けようと地下鉄の駅に殺到し、階段などで多数の怪我人が出た。

 首相官邸には直ちに関係閣僚らが招集されたが、幻覚の発生がほんの3分程度だったことや近隣諸国の動向などを総合的に勘案した結果、緊急対策本部の設置は見送られた。

 夜までに警視庁が集計したところ、千代田区と港区、中央区にかけて数万人がほぼ同じ幻覚を見ていたらしいことが分かった。

 誰もが同じ幻覚を目にし、パニックに襲われたことに関して様々な憶説が沸騰した。まず当然のごとくテロ集団による化学兵器使用説が浮上したが、何も物証が無く、それらしい症状を訴えた者もいない。どう説明を付けたらいいか分からなくなると、「季節的要因」やら「晩春になると植物が発散する化学物質」やら、傍目にも苦しげな説がメディアに飛び交い、庶民の失笑を買った。
 

 そしてついでながら、プラチナ仮面──すなわち吾輩──が近くまで来たという増子君の推察が間違いでなかったことを、彼の名誉のためにもここに明言しておく。
 

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
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