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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

怪盗プラチナ仮面 17

   

 
 急にやよいが探るような表情になり、吉井に顔を寄せてきた。左右を見回してから囁く。

「代わりに教えて。プラチナ仮面にさらわれたって本当?」
「そんな噂もあるな。詳しいことは知らん」
「へええ。まあいいや」

 「ちょっと待って」と、やよいが吉井に背中を向け、スマホを操作する。吉井のスマホに、メールの着信音が鳴った。美園小枝子に関する必要情報を確かめると、吉井は素早くスマホを内ポケットにしまった。

「私に聞いたなんて言ったらダメだよ?」
「言うかよ。今度昼メシおごるわ」
「晩メシは別の人に取っておくんだぁ?」
「別に、晩メシでもいいよ」
「無理しなさんなって。じゃ王子様、頑張りな!」

 竹内やよいに軽く手を振って、吉井明良刑事は颯爽と署を飛び出した。
 もちろん、捜査本部に戻る考えはない。このまま新幹線に飛び乗ってまっすぐ神戸へ。そしてプラチナ仮面逮捕劇に参加し、小枝子も取り戻す!

 吉井刑事は自分の描いた筋書きに酔った。それ以外の展開などあり得ないかのように思えてきた! 実際、王子のポジションに自分以外の誰がいるだろうか? 噂に聞いた元カレ? そんな奴の出る幕は終わったのだ!

 だが、下っ端デカにすぎない自分があのプラチナ仮面と1対1で対決? 当たり前だ、王子ならば当然乗り越えねばならぬ試練ではないか! そして見事、盗賊を倒し、姫君とめでたく結ばれる! それがファンタジーの定石だ、そうなるに決まっているのだ! これがファンタジーの世界なら。

 現実はそうはいかない。追い返されずに済んだとしても、その他大勢の捕り方の一人として、公務の執行に参画する以上のことはあり得ない。それでも小枝子が無事に救出されれば、その先はあれやこれやの諸手続きを経て、結局はゴールインに至るのが自然ではなかろうか。要するに今は、自分が彼女との最短距離にいると信じること。それが肝心なのだ。

 ……などという思いが、吉井刑事の脳裏を1.5秒ほどで駆け抜けた。

 小走りに地下鉄の駅へ向かう吉井がふと空を見上げた時、北方のはるかな高みから、昼間の流星のような細く白い煙が尾を引いて落ちるのが見えた。

 ──なんだあれ?

 そして次の瞬間、現実では誰しも絶対に聞きたくないと思っている警報音が、四方八方から吉井の耳に飛び込んできたのである。

 北の方角から閃光が走り、続いて耳を聾する轟音が響いて、大地が上下に揺れた。

 熱風が吉井の顔に吹き寄せ、目を開けていられなくなる。地下鉄ホームに降りる階段横の壁に身を寄せ、熱風が収まるのを待って顔を上げると、巨大な灰色の雲が天高く立ち昇っていくのが見えた。

 灰色の雲は蒼穹に突き当たって横に広がり、吉井刑事のいる頭上まで伸びてきた。熱風が渦を巻き、吉井の目の前で竜巻になった。
 

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
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