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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

怪盗プラチナ仮面 17

   

 
警視庁キャップ浅野恭平様御机下
 

 欧州ではテロに対する脅威がいつになく高まり、司法当局者は焦りを深めております。記者も自然に彼らと接触する機会が増えているのですが、この資料もそうした取材活動の過程で入手いたしました。

 本資料は、プラチナ仮面事件において1910年にロンドン警視庁が作成した最終報告と思われ、パリ警察にも送付していたのですが、同警察の資料倉庫で百年以上日の目を見ないでいたようです。お読みになれば分かりますが、本資料では、盗賊が着用する「仮面」はいかなるものかという分析に重点が置かれています。

 前置きしておきますと、その「分析結果」なるものは、現代からすればまったくの噴飯物と言えるでしょう。何しろ、純度100%のプラチナで作られた仮面は、「天地に充満する霊を呼び集めて一定方向に放出する『整流器』の機能を果たしている」というのです。似非科学が横行していた20世紀初頭でもあり、プラチナ仮面に翻弄され続けていた捜査関係者からすれば、このようなオカルト的な憶説を非公式の資料としてまとめることにもさしたる抵抗感は無かったのかと思われます。

 ですので、私はこれも一つの歴史的事実と捉え、以下の通り資料の記述を追っていくことにします。

 では、仮面は「整流器」としてどのように機能するのか。第12代プラチナ仮面のエドワード・ヴァダイッチは、どんな状況でも捜査機関の裏をかいて犯行を成功させてきたことが様々な憶測を呼びました。いわく(1)何らかの政治的背景を有する当局側の内通者が捜査情報を流している(2)一連の犯行は当局によって仕組まれた狂言であり、盗品は政府高官の懐に入るか機密費に充てられている──などですが、いずれも何も根拠はありません。とにかくヴァダイッチは、神懸りとも言えるほど何の危なげもなく盗みをやってのけるのです。

 挑戦状を送られた警察側がどれだけ厳重な警備を敷いていても、犯行はいつの間にか行われ、事件後に警備担当者は「何も見ていなかった」「まったく気づかなかった」と口を揃えました。「一瞬たりとも警備対象から目を離していない」──多くの者はそう主張しましたが、それでも犯行は行われていたのです。

 宝石の陳列室、疾駆する列車の中、前後に騎馬警官を配置した馬車──どのような状況でも、ヴァダイッチは文字通り完璧に、予告した獲物を盗んでいきました。

 もはや魔術の域に達しているとしか思えない。当時、捜査員の多くはそう思ったのでしょう。そこで浮上してくるのが、プラチナ仮面のあのマスクというわけです。

 本資料には、古代アンデス文明で使われていた祭祀用の仮面について、当時のチリ政府から提供された情報が記載されています。インカ帝国成立のはるか以前、「銀の仮面」を着用した呪術師が魔術を駆使して民衆に君臨したという言い伝えが、密林に暮らす少数民族に伝わっているというものです。スペイン語で「銀」はplataであり、愛称としてplatinumが派生したことも偶然の符合ではないと資料の執筆者は述べています。

 伝承にいわく、「仮面を着けた呪術師が天に呼びかけると太陽が隠れ、空から火の雨が降り、川の水が真っ赤な血となって氾濫した」「呪術師は仮面を通じて精霊に呼び掛け、精霊の働きによってまったく別の現実を創造することができた」と……。これは一種の幻術「イリュージョン」と呼ぶことができるのではないでしょうか?

 この見地から、資料は結論を導き出しています。やはりヴァダイッチも古代の呪術師同様に幻術を駆使し、泥棒が目の前にいないかのような「別の現実」を警備担当者に見せて欺いていたのではないか、と。これが事実なら、プラチナ仮面がどんな厳重な警戒網もやすやすと突破してきたことに説明がつくというのです。

 そしてもう一つ、無視できない事件があります。この資料がパリに送付されて3カ月後、ロンドンでプラチナ仮面による金塊盗難事件が起きました。どうやらその犯行時にヴァダイッチは幻術を全開にしたらしく、警官十数人をはじめ百人を超える市民が「世界の終わり」を目にしてショック症状を起こし、病院に運ばれました。

 その際の警官の証言が残されていますので、概略を以下に記します。
 

 

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