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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

怪盗プラチナ仮面 17

   

 
 煙は日輪を覆い隠し、読誦の声とともに天へ達せんばかりだった。警視庁の屋上ヘリポートに突如出現した壮麗な宗教空間。参列した人々はことごとくトランス状態に入りつつあり、刑事部長さえも法悦に身を任せようとしていたその時、増子の懐で携帯ガラケーが振動した。我に返った増子は救われた思いで携帯を耳に当てた。

「はい増子」
「一課の谷です」
「うん、どうした」

 捜査一課特殊捜査係長の谷雅和警部は気負い込んでまくし立てた。

「発信機が動いてます!」

 波のうねりのように周囲の喧噪が高まり、谷の声をかき消す。増子には「発信機」だけ聞こえた。
 美園小枝子に渡したそれは前日23時過ぎ、一課の追跡画面上から消えた。張り込んでいた神奈川県警の私服が突入した時には部屋はもぬけの殻で、窓が開け放たれていた。

「周りがうるさくて聞こえん、でかい声で言え!」
「美園小枝子に装着した発信機が移動を始めています!」
「本当か? 今どこだ」
「それが、大塚上空です! 一直線にこちらに向かっています! 物凄いスピードで、あと数分で本庁に到達する模様です!」
「バカな!」

 増子は携帯を懐に放り込み、弾かれたように立ち上がった。儀式の場を飛び出し、まっすぐ非常階段へ突進する。そして年甲斐もなく階段を一段飛ばしで駆け下りた。

 「一直線に」こっちに向かってる? ということは空か! あの巡査と一緒に、俺たちのツラを拝みに来たってわけか! 面白い! もう逃がさんぞ!

 息せききって6階の捜査一課大部屋に突入すると、谷警部が食い入るように見つめている大型ディスプレイの前へ走った。
 谷は増子を振り向こうともせず、ディスプレイ上の点滅を凝視している。それは庁舎から北に500メートルも離れていなかった。

 谷警部が上ずった声を上げる。

「間もなく到達します」

 増子は、北に面した大部屋の窓に目を向けた。

(うららかな春の、午後の日差し。うっすらと霞がかかっている。だから霞が関。やっぱり疲れてるな俺。平和な日本。でも運命が近づいてきちまった。

 ほぉーう、やるじゃん。
 

 再突入体が近づいてるのはアラートが鳴らなくても俺には分かる。アラート要らずの俺。……やっぱり疲れてんのか。疲れてくるとただでさえ大して良くない頭が余計回らなくなる。何とかならんもんかな。

 しかし大気圏に突入して煙出してるようじゃ駄目だぜ、本格的な戦争状態だったら目測されて撃墜されるだろう。……なんてほざくのは負け惜しみだな。警戒網全部潰して着弾させてるんだから、俺たちの負けには違いない。いろいろと舐めてたんだな。……ありゃまぁ、3本だよ、見事にシンクロナイズされてる三つの弾道、綺麗だねえ、このぶんだと国会前交差点あたりか)

 窓の全面が閃光に覆われた。
 

 

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