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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

怪盗プラチナ仮面 17

   

 
 次の瞬間、一課の大部屋全体が炎に包まれた。課内にいた係官全員の体から火が吹き出し、火ダルマの人々が絶叫を上げて転げまわる火焔地獄がそこに現れた。火の塊になった増子刑事部長の目には、一面の炎以外何も映らなかった。
 

 増子はのたうち回りながら大部屋の入り口に突進し、ドアの把手を無我夢中にひねって引っ張った。しかし開かない。足で蹴ったがびくともしない。部屋の中の書類やビニール、プラスチック製品などあらゆるものが発火し、床のカーペットからも炎が噴き上がっている。増子は苦し紛れに、机の上にあった二つの茶碗の飲み残しを頭に浴びせた。文字通り焼け石に水だった。

 窓の外から突然、甲高い女の笑い声が聞こえてきた。

 既に窓ガラスは粉々に割れ、空一面を覆う炎が吹き込んでいる。その火柱の中で、竜巻のように炎が激しく渦巻いているのを増子は見た。竜巻はゆっくりと窓枠を越えて、火の海となった大部屋へ入ってくる。

 ──クソ、これが大幻術グラン・イリュシヨンか。全身を焼かれる熱さまで、まるで現実みたいだ……。だが、所詮は幻覚だ! プラチナ仮面は近くにいる!

 炎に包まれながら増子は叫んだ。

「無駄な抵抗はやめろプラチナ仮面! 多重窃盗容疑でお前を逮捕する!」

 増子の目の前で、竜巻の中から再び怪鳥のような女の笑いが湧き起こり、室内に反響する。渦がゆっくりと収まり、火焔の中にいる者の姿が次第に明らかになった。

 黒い衣装をまとった女が、宙に漂いながら哄笑しているのを増子は茫然と眺めた。

 カトリックの修道士めいた黒衣の、頭部を覆ったフードからこぼれる白髪は火焔の中でたなびき、毒々しいまでに濃い紅をさした唇を開けて女は笑っていた。

 顔は白粉を塗りたくったように真っ白だが、左目の下に黒い涙滴が一つ描かれていて、それが一層見世物小屋じみた異形を際立たせている。

 しかし、どれだけ異相に変わっていても増子には見間違えようもなかった。前日にみずから特別任務を命じ、現在盗賊に拉致されているはずの女性警察官が、魔女さながらの出で立ちで宙に漂っているのだった。

 「魔女」は哄笑を止め、火焔の中から高級官僚を見据えた。

「哀れな小役人。預かり物を返しに来たぞ」
「しっかりしないか! 君はプラチナ仮面に操られている! 警察官たる者は……」
「ほざけ愚か者が!」

 魔女が刑事部長に向かって左手を差し出した。その手のひらに、目も眩むばかりの光が生まれる。美園小枝子は唇をゆがめて目を見開き、光球を左手に握り締めて肩の上に持ち上げた。

「受け取れ、貴様の大事な子種を!」

 魔女が叩き付けてきた光球を、刑事部長はもろに顔面に受けた。仰向けに倒れた増子は、哄笑が遠のいていくのをくらい意識の中で聞いていた。
 

 

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