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忠実な部下たち

   

近未来、あらゆる企業に属する社員は、ほぼ例外なく部下を持つようになった。AI技術などが進展したために、人はAI秘書や作業員を介して業務をしなければならなくなった。

高木が勤める会社でもAIの部下が登場し、しかも彼らは非常に優秀だった。

だがそのことはつまり人間の仕事が奪われることでもあった。

そうした動きに危機感を持った一部の人々はやがて反乱を起こす。反乱自体は大きな問題にもならなかったが、会社には急激な変化が……

 

「先輩、遊びに行きましょうよ」
 某商社に勤める高木 翔太は、PCでの作業中、後輩から声をかけられた。壁の時計は午後三時を指している。
「おいおい、まだ定刻前だぞ。理由もつけずに外に出ちゃあまずいだろ。部下を持つ身としては……」
 高木は後輩をたしなめたが、効果があるとは思っていなかった。既にオフィスには人の姿はまばらになっており、目を血走らせて仕事に臨んでいる者は皆無である。
 仕事が入っていないわけではないが、空間全体に余裕のようなものが満ちている。
「まあまあ、そう固いことを言わんで下さいよ」
 後輩は高木の言葉を笑って受け流して続けた。
「ほら、組合の月報に書いてあったじゃないですか。今月から全社員が部下持ちになったって。非正規でも短時間勤務でも関係なく、最低『一体』の部下を持つことになったわけですから、もう特別なことじゃあないですよ。ただまあ、新しく上に立つことになった人たちは、調整に苦慮しているようですが」
「俺たちだけ無理する必要はないってことかな」
 高木は軽く息を吐いて左右を見回した。
 高木よりずっと早く正確に、新入りたちがPCを動かして提出する書類を作っている。もっとも彼らは高木たちのように、掌を使ってのタイピングはしていない。「意思」を直接オフィスソフトに伝達しているのだ。
 何故そんなことができるのかと言うと、PCと「彼ら」が同族だからである。
 後輩が言う「部下」とは、人ではない。AI、いわゆる人工知能だ。
 大きさは数十センチのマスコットサイズから、人と同程度まで様々だが、皆、正確に急ピッチで作業をしている。
 三年前にこの老舗商社に入った、まだ新入りの部類である高木は、本来割り当てられる仕事をこなしながら、「彼ら」が仕上げてくれた作業をチェックするという役割を負っている。
 もっとも、日進月歩の発展を遂げている「彼ら」の仕事は極めて完成度が高く、まずミスはない。
 少なくとも高木たち新参が目視でチェックを入れるよりはずっと信頼性があるはずだ。
「ねっ、先輩行きましょうよ。結局彼らの仕事は僕らの手柄なんですから。それに、せっかく割り当てられたAIたちに、仕事を残しておくのも人情のうちですよ。何せ、AIには仕事意外に生きがいってもんがないんですから」
 後輩はいつになく熱心だった。大方、彼女とのデートをすっぽかされたりで、暇ができてしまったのだろう。もっとも、週末の前は晩酌だ、と決めている高木にしても、そう悪い話ではなかった。
 同じように金を使うなら、楽しい方がいいに決まっている。
「OK、分かったよ。それじゃあ行こうか。グリーン君、ケビン君、後はよろしく頼むよ」
 体裁にこだわる必要もないな、と高木は思い直し、猫型AIのグリーンと、人型AIロボットのケビンに仕事の続きを頼んだ。
 一見どう見ても端正な欧米人であるケビンは、爽やかな笑みを浮かべて高木たちを送り出した。
「行ってらっしゃいませ。二十三年式のPCが格安だったので、庶務課の方に発注書を回しておきますね」
「ああ、頼む。何しろ、いい道具は重要だからな。僕らにとっても、君たちにとっても」
「ふふ、ありがとうございます」
 隙なく笑うケビンに軽く会釈してから、二人は遊技場に向かった。
 政府公認のカジノで、ディーラーなどがすべて無人化されているのが特徴だ。人件費がかからない分、配当金が出やすいというわけだ。
 もっとも、今日に関してはツキがなかった。

 

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