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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

怪盗プラチナ仮面 18

   

 米国帰りの「伯父さん」のヴィジョン。それが吾輩に幼年期の終わりを告げた。

 あの時、吾輩は幻視者になった。

 

 

ボイボディナ・スレム

 

 夜でなければ見えぬものがある。例えば星空。夜空の星は昼の間には意識にも上らなかった「光」の存在を改めて人に認識させるが、同時にそれらがあまりにも遠く隔たっていることを教える。ゆえに宇宙においては闇が基本であって、その中に現れた光は奇跡であり神の恩寵だと言うこともできる。

 我々人間は、100年にも満たない時間のうちに消え去るいっときの現象にすぎない。同様に、つかの間の奇跡である光も永遠の尺度からみればゼロであり、無に等しいのかもしれない。しかし「世界」は、光があることによって成立している。光がなければ世界、いや宇宙もない。我ら幻術師が幻影を作りだすこともない。

 ゆえに、光が闇の否定であればこそ、幻術師はもう一つの真実を創造するのだ。我々は一瞬の幻のうちに、永遠を求める。それは、事物の構造が断面図によって明らかになることと似ている。石ころが巨岩となり再び摩滅して無に帰すまでの時の流れと、閃光のように意識の上をよぎる幻影との間に、本質的な違いがあるだろうか?

 そう、我々にとっては相対的な長短の差異でしかない。
 

 古代より語り伝えられてきた神話もまた、闇を照らし我々に多くの知恵をもたらした。例えば神話の主人公は運命の時が近づくと、ある種の輝きを身にまとう。何かの合図でもあったかのように、ホメロスの英雄たちが我が身を祭壇に捧げる準備を始めた時、どこからか一条の光が差し込んで、その姿をまばゆいばかりに照らしだすあの一瞬だ。その表情、姿は人々の目にあまりにも神々しく輝かしい。だからこそアキレウスもヘクトールも不滅の存在として、人々の記憶に刻まれたのであろう。

 しかし神話が記憶に刻まれるのは、場所や規模を変えて幾度となく反復されるからでもある。この100年間というもの、安物の神話が無数に濫造された。すべては陳腐極まるまがい物の、仰々しい皮を纏った茶番だ。とはいえ、まがい物だからこそ法外な供物を要求するのが世の常である。

 それが経済というものであろう? 読者諸賢よ。

 茶番を茶番と承知で演じながら、強欲な者、怠惰な者、無知な者、皆がそれぞれに罪を犯した。かく言う吾輩もその一人である。
 

 さて、「プラチナ仮面」と呼ばれてきた21人の「器」は皆、類稀なる幻視者ヴィジオネールであった。光ある限り、そこにはヴィジョンがある。過去であれ未来であれ、ヴィジョンはあらゆる次元に遍在する。これを自分の意思によってとらえ得る者が、「器」として仮面を受け継いできた。そう、初代のディエゴ・ガブリエル・アナワルクから宮木彰一郎に至るまで、皆、一個の吾輩として生きている。

 少なくとも、今はまだ生きている。

 21名それぞれが語るべき物語を持っているが、今こうして語っている吾輩が肉身を持った人間であったのは、やはりエドゥアルト・ヴァダイッチとしてでしかない。既に100年余を魂魄としてさまよい、悲しむだけ悲しんできたと、手前勝手ながら感じているのだ。ゆえにこの者、エドゥアルトを吾輩自身として語ることとしよう。

 既に視界は狭まり、21世紀の愛すべき彼ら彼女らは、吾輩の手の届かぬところで動き始めている。吾輩に許された幕は終わりが近い。急がねばならない。
 

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
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