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歴史・時代

東京探偵小町 第八話「月夜の宴」 <4>

   

「ハテ、嬢ちゃんはどこのお子じゃったかの。去年の二番子なら、わしの知らん顔はないはずなんじゃが。よその街から来たのかね」
「あ、あの、あたし…………」

小説版『東京探偵小町
第二部 ―夜会編―

Illustration:Dite

 

 帰国してまだ日が浅い時枝は、倫太郎や和豪をお供に、暇を見つけては東京市内を探検するようにしていた。とは言え、知らない場所はまだまだ星の数ほどある。これほど立派な邸宅を目にするのも、もちろん初めてのことだった。
 欧州の貴族の館もかくやというその邸宅は、かつての鹿鳴館から今は「華族会館」と名を変えた、日比谷界隈の名所に似た壮麗な建物だった。今宵は何かの集まりがあるのだろうか、館のみならず庭のあちこちにも、煌々とあかりがともっていた。
(ハナちゃんたち、ここのお庭に入っていったのかしら)
 勝手に入ってはまずいだろうかと門前でためらっていると、館の入り口から出てきた黒服姿の青年たちが、「どうぞ、お早く」と時枝を手招きした。やはり何かの集まりらしいが、招待されているわけではない。遠慮しようとしたものの、気づけば時枝は、彼らの勢いに押されるかたちで邸内に足を踏み入れていた。
(あのお兄さんたちが「どうぞ」って言うから、思わず入っちゃったけど……すごいわ、なんて豪華なパーティーなの)
 会場を包む優雅な調べと、華やかに着飾った人々のざわめき。
 時枝は「お城の舞踏会みたい」とつぶやきながらも、奇妙な違和感を覚えずにはいられなかった。うまく言えないのだが、何かが違う。この違和感は、もしや出で立ちのせいなのだろうかと、時枝は自分の着ているものに目をやった。
 まったくの普段着ではないものの、よそゆきとまではいかない紺地のワンピースに麦わら帽子。見れば見るほど場違いな気がして、時枝はなるべく目立たないよう、壁伝いに歩いた。
 そもそも猫探しを続けるならば、こんな場所に長居はできない。やがてテラスへと続く仏蘭西窓を見つけた時枝は、そこから中庭に出てみようと思い立った――のだが。
「やあ、こりゃまた、かわいい嬢ちゃんじゃの。楽しんでおるかね?」
 グラスを片手に上機嫌に笑う老紳士に声をかけられて、時枝は足を止めた。無難な挨拶と共に「素敵なパーティーですね」と返すと、老紳士は時枝にも酒の注がれたグラスを差し出した。
「そうじゃろうとも。なんと言っても、わしらの年に一度の大宴会じゃからのう。さあ、嬢ちゃんも、とっておきのマタタビ酒をどうかね。こいつを生でやるとたまらんよ」
「マタタビ酒? でも、あたし、お酒は…………」
「播磨屋さん、播磨屋さん。あちらで会長さんがお呼びですわ」
「おお、今行くわい」
 臙脂色のドレス姿の婦人に、老紳士が鷹揚にうなずいてみせる。
 そこで初めて、時枝は違和感の正体を探り当てた。それは、この会場に集う人々の「目の色」だった。髪の色は黒や濃い栗色、その白髪交じりがほとんどなのに、目の色だけが日本人のそれではない。濃淡さまざまな青をはじめ、緑や黄緑もあり、日本人らしい茶色に近いものでも、いやに赤味がかっているか、かすかに金色を帯びているのだ。
 それだけではない。
 彼らの瞳孔は細長く縦に割れ、まるで猫の瞳そのものだった。
(まさか……まさか、この人たち…………!)
 ぞくりと肌が粟立ち、体が震える。
 再び時枝のほうを向いた老紳士の、青い瞳の瞳孔がキュッと狭まるのを見て、時枝は思わず後じさった。
「しかし……ハテ、嬢ちゃんはどこのお子じゃったかの。去年の二番子なら、わしの知らん顔はないはずなんじゃが。よその街から来たのかね」

 

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