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恋愛 / ラブ・ストーリー

渚-nagisa-(2)

   2008年11月21日  

 弘樹が箒を用具入れにしまいながら、タケルに向かってそう言った。

「ああ、いいよ。どうせ暇だし。もう博之も家に着いている頃だろうからついでに博之の顔も見に行こう」

 タケルは自分の机の上からカバンを手に取った。
 今どき珍しく、きちんと形の整った学生カバンである。周りの友達は流行りに流されてペシャンコに潰した学生カバンを持っていたが、タケルは何故わざわざ綺麗に形を整えている学生カバンを潰したりするのか理解できないでいた。

 二階にある二年六組の教室を出て、すぐ右手にある階段を二人は下りていった。今年の春から三十二期生を向かえ入れた階段の手すりは、ところどころ塗装がはげ、褐色にさび付いた手すりから、鉄のさびた匂いが漂っていた。
 上履きから下靴へと履き替えるために、げた箱を開くと、その扉には以前誰かが油性マジックで書き残した相合い傘が目に飛び込んでくる。タケルはその相合い傘をさほど気にすることもなく、下靴に履き替え、上履きをキチンと揃え、げた箱の中へと入れた。
 すでにすっかり帰宅準備のできている弘樹と一緒に雑談しながら玄関を出た時、二人の後ろから、低音でどすの利いた声が二人を呼び止めた。二人は恐る恐る後ろを振り返った。

「お前ら、ちょっと顔かせよ……」

 そこにはだいぶ前に教室を出て行った木下純也の姿があった。
 待ち伏せしていた純也のその言葉に、タケルと弘樹の首筋には嫌な汗が流れ始めていた。『顔をかせ』という言葉には、何故だかとてつもなく不吉な事を想像させる意味が込められているのが、一般的である。タケルと弘樹の頭の中には、校舎の横にある体育館の裏に連れて行かれて、そこであらぬ因縁をつけられてボコボコに殴られてしまう、というイメージが沸々と湧き上がっていた。
 二人は歩き始めた純也の後ろを、これから何をされるか分からないという恐怖感とともに静かについて行く。前を行く純也の肩で風を切りながら歩いてゆく姿が、二人の恐怖心をさらに煽っていた。

 

-恋愛 / ラブ・ストーリー

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