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ラブストーリー

犬が取り持つ恋もある 4

   

抱きしめられた腕から伝わる雰囲気。
このまま流されても・・・そう思ったが、伸樹は自分が焦っている事を笑い、帰ろうとする。
だが、咄嗟に佐和子は伸樹の袖を掴んでいた。
それが何を意味するか分かっていても、一人でいたくないと、その表情は気持ちを隠せなかった・・・。

最終章です。

 

 ただ黙ってアタシを抱き締めている腕に、そっと触れてみた。
 正直な感想は、温かい。
 そして、きっと、今にも爆発しそうな心臓からの音は、その腕から伝わっていると思う。
 何かが起こりそうな予感は、少しずつアタシの身体を硬くする。初めてなのだから仕方が無い。

「ちょっと、焦ってんな・・・」

 少しの笑いを含んで頭の上から降ってきた声に、大きく深呼吸した。
 そして、ゆっくりと離れていった腕に、少しだけ切なくなった。
 
「じゃな、また明日」

 そう言った伸樹さんに、アタシは勢い良く振り向いて、袖を咄嗟に掴んでしまった。帰って欲しくなかった。
 いつものように、一人で眠りたくなかった。
 それがどういう事を思わせるかなんて、分かっている事。だけど、そうなってもいいって、思っていた。

「まだ・・・、一緒にいられない?」

 言ってから、凄く胸が痛くなった。
 思っている事を素直に言葉にする事は、楽だと思っていたのに、今はそれを素直に伝える事が凄く苦しかった。
 もしかしたら、ただ困らせているだけかもしれない。だけど、伸樹さんの前では顔は作れない。今、思っている事は、きっと顔に出ている。
 それを誤魔化す事も、今は出来ずにいた。
 表情を作る事なんて、容易かったのに。

「な、ゴンの散歩行くか?」

 伸びてきた手がアタシの頬を撫でて、気が付くと唇が重なっていた。
 自然と割り込んできた舌に、アタシは応えている。誰かに何かを教わった訳じゃないけれど、触れられた舌は触れ返したくて、それでも遠慮がちに伸樹さんの舌に触れていた。
 そして、絡み合っていた舌を不意に吸い上げられ、アタシは伸樹さんに掴まりながら背伸びをしていた。それぐらい、強く吸われて苦しくなる。

「んっ・・・んぅっ」

 思わず声を出してしまった時、伸樹さんは解放してくれて、少し呼吸を乱したまま、困ったように笑った。

「悪ぃ。何も考えてなかった」

 呟いて頬にキスを落としてくれると、ドアを開けて中に入るよう促した。

「まず、着替えて来い」

 そう言って、玄関の中に一緒に入ってきた。
 家の中に入ってくれた事で顔を緩ませたアタシは、靴を脱ぎ捨てて、慌てて着替えに二階の自室に向かう。
 鞄を放り投げて着替えを済ませると、また慌てて一階に下りて、玄関に急いだ。

「何、焦ってんだよ」

 そんなアタシを見て微笑んだ伸樹さん。その微笑に釣られて、アタシも口角を上げた。

 

-ラブストーリー


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