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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

怪盗プラチナ仮面 19

   2017年11月24日  

 二重帝国陸軍の兵士になって3年。吾輩は11月のある日、ウィーン行き軍用列車の警護任務に着いた。

 線路が爆破され、列車は立ち往生した。山賊が襲ってきたらしかった。

 

 

ブダペスト(1895年)

 その秋一番の冷たい風が吹き、間近な冬を感じる日だった。夕闇が濃くなった午後5時頃、糧秣を積んだ8両編成の輸送列車はブダペストを出発した。吾輩の加わった警護隊は二両目の客車に集まっていて、戦闘を前にしたような緊迫感は無く、カードゲームや無駄話に興じながら退屈な時間を潰していた。
 正規軍が山賊ごときの警戒任務に狩り出されたことに文句を並べる兵もいた。しかし上層部は独立運動に神経を尖らせており、物資の輸送一つにしても、帝国共同陸軍の威信を示す機会と考えられていたのだろう。
 だからその日も、一個小隊の40人に加え重機関銃まで配備するというものものしい陣容で出発したのだ。

 そろそろオーストリアとの国境を越えるかと思われた時、突然列車が止まった。吾輩は一人で貨物車両の点検を終え、客車に戻ろうとしていたところへ急制動が掛かったから、あやうく転倒しそうになった。何事かと思って急いで本隊に戻ると、兵士たちはみな銃を手に列車から降りようとしている。警護隊長のセルビア人中尉がいたので、駆け寄って敬礼した。

「何事でありましょうか?」
「何事だと? 貴様あの音が聞こえなかったのか」

 大半の士官をドイツ人が占める中、この中尉は連隊内で唯一のセルビア人士官だった。本務は連隊本部付であるにもかかわらず、今回なぜか警護隊長を仰せつかった彼は要領を得ないでいる吾輩に向かって怒鳴った。

「線路が爆破されたのだ! 小癪にも山賊どもが襲って来よった。遠慮は要らん、皆殺しにせよ!」

 警備兵たちは5人、10人と列車を降り、闇の中に向けてやみくもに発砲している。それにしては、敵が応射している気配すらない。やがて兵は逃走しているらしい山賊を追って、身を低くすることもなく闇の中へ駆け出していく。吾輩の目には敵の影も形も見えなかった。
 彼らの後を追って列車の外に出た隊長が、吾輩を振り返って声を張り上げた。

「どうした貴様。臆したか」
「いえ、ただ、敵は何処にあるのかと」
「目が付いておらんのか! 敵はほれ、あそこを逃げていくではないか」

 中尉はそのまま部下たちを追って駆け去った。やむなく吾輩もカンテラを持って列車を降り、爆破されたという箇所を確認するため先頭の機関車へ走り寄った。

 外部から見た限り、機関車には何も損傷はない。レールを仔細に照らして見ても、爆破されたような形跡は皆無だった。吾輩は銃を構えて機関車の中へ踏み入った。

 運転室内の機関士と助手は気を失って倒れていた。吾輩は運転席で窓にもたれてぐったりしている機関士の頬を2、3回ひっぱたいてやった。機関士は正気を取り戻した。

「何事だ。爆発など起きていないじゃないか」
「いいえ」

 機関士は目を丸くして吾輩の顔を見つめる。

「ものすごい爆発音がして、列車がひっくり返って外に投げ出されたんです。私も車体の下敷きに」
「何を言う。お前は今、運転席に座ってるじゃないか」
「え」
「周りを見ろ。お前は車内にいて、どこも怪我などしていない」
「そんな……」
 

 

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