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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

怪盗プラチナ仮面 20

   

「光が消えたと感じるのは、ただ、目に見えなくなっているだけなのです。光はいつもあなたとともに、あなたの中にあります」

 

 
 顔を白く塗った道化師が一輪車に乗って現れ、マジャール語でお愛想を言いながら、客席に手を振りキッスを投げて愛嬌を振りまく。続いて白馬に跨った少女がステージ狭しと駆け回り、疾駆する馬上に立ち上がって両手を広げる。客席から拍手が上がった。吾輩も拍手した。

 動物の曲芸が始まった。玉乗りをする熊、綱渡りをする豹、虎の火の輪潜り……。ヨウムがドイツ語で飼い主との掛け合いを始めると、平土間の客席から笑い声が起こった。しかし吾輩の特等席はある意味「天井桟敷」でもあり、遠すぎてヨウムの声がよく聞き取れない。これらの動物芸が終わると、空中ブランコなどの人間による曲芸が披露された。

 どの芸も見事だった。この連中が深夜になると山賊に変わり、旅人や列車を襲うのか? 線路が爆破されたかのように兵が錯覚したのも、これらの芸の一種だとすれば? 自分の疑問はかなり核心に迫っているような気がした。

 ──いろいろ謎めかしてるが、こうなったらお楽しみついでに全部解き明かしてやろうじゃないか。

 綱渡りの芸が終わって照明が落ち、天幕の中は闇に包まれる。吾輩のいる貴賓席も真っ暗になった。闇の中の自分と向き合って時の過ぎるのを待っているうち、無人のステージ上にスポットライトが当たった。ステージの袖から、人影がライトの当たる位置に近づいてくる。

 ステージ中央に立った人物の顔にライトの光が当たり、四方に反射した。その銀白色に輝く仮面は確かに一週間前、軍用列車の貨車で見たものだったが、服装は少し違っていた。鍔の広い帽子と紫色のマントは同じながら、マントの下に修道士の法衣を思わせる黒い衣装を纏っていた。

 仮面姿のリベロがマントの中から両手を出し、手のひらを上にして広げ、客席に頭を下げて感謝の意を表した。

「紳士淑女の皆様。本日はお忙しい中、手前どもシルク・ド・ノワールの公演にお越しくださりましたこと、座長を務めまするこのマリアーノ・リベロより深く感謝を申し上げます。これより手前が、皆様をささやかな旅にご招待いたそうと存じます。どうかそのままお席にお着きになられて、しばしお付き合いくださいまするよう」

 わずかな発音の濁りも感じさせない、見事なドイツ語。耳に残っているスペイン語訛りが嘘のようだった。これがステージに立った者の芸なのかと吾輩は舌を巻いた。あらかじめ稽古を重ねてはいるのだろうが、それにしてもあまりに隙が無い。丁重ながら少しもへつらいを感じさせず、堂々として、限られた言葉で客の心を掴んでしまう口上だった。

 スポットライトが次第に暗くなっていく。両手を広げて頭を垂れたリベロの姿が、辛うじて判別できる程度にまで暗がりの中に沈んだ。ステージと客席が静寂に包まれて一つになる。
 

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
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