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ハートフル

モモヨ文具店 開店中<最終回> ~モモヨ文具店とかふぇ みょうが~

   

 
 直くんの夜は、明日の準備に費やされる。
 万年筆のお孫さんから連絡があって九州行きが決まった。
 ふと綾乃さんを思い出し、スマホを鳴らす。
 直くんは綾乃さんに定期的に電話をするようにしている。綾乃さんの創作意欲はものすごいのだが、一直線に進みすぎて死にかけることが何度かあり、生存確認もかねての連絡だった。
 ワンコールで出た綾乃さんのやつれた顔を見た瞬間、ああ、やっぱりと思った。
 炊飯器、使ってませんね。
 すみません! 間違えて新しく買ってしまいました! あれはなにかあったとき用にしておきます!
 直くんの長い長いため息にさえ、綾乃さんは、一呼吸も目を離したりしなかった。
 綾乃さんのテンションが猛然と上がり始める。
 筆が止まっていた頭の中のスケッチ帳に、どんどん新しい色と形が加わっていく。
 綾乃さんにとって直くんは不思議な人だった。
 会うだけで元気が出る。テンションが異様に上がる。創作意欲がどんどんわく。
 綾乃さんは今やっている社外秘のプロジェクトについて話だし、一緒にいるが完全に無視されている哲多さんは、慌てた。メールで上司に確認を取ると「放っておけばいいよ」と返ってきて、ますます首をかしげる。仕方がないの一人で飯を食う。
 ともかくしばらく話さなかった綾乃さんはろれつが回らないながら懸命に話して話して話しまくった。そのうち感覚を取り戻して流暢になっていく。そのあいだ、直くんはただ聞き、うなずき、ときおりなにか言った。
 綾乃さんがいつも持ってるスケッチ帳を取り出して、スマホをテーブルに置き、なにかを描き出す。鉛筆の滑る音がする。直くんはときおり、見せてくださいとかそこの角度はもう少し緩くしていいと思いますなどと提言する。鉛筆の音が加速し続け、小一時間で今、行き詰まっている作品の完成図ができあがった。綾乃さんの頬が紅潮する。直くんも、出来に唸った。
 それからなにか二、三話をすると切ろうとした。
 あの! 
 あ! すみません、哲多さん。高橋さん、こちら、哲多さんです。最近入った新人さんです。こちら高橋 直さん。
 スマホの向こうでラフな格好をした直くんが会釈する。
 タカハシ文具工房の高橋 直です。外部アドバイザー兼取引先です。
 お二人は、その、おつきあいを?
 哲多さんが尋ねる。どう見てもそうとしか思えないくらい綾乃さんははしゃいでる。直くんの落ち着き具合からしてみても、綾乃さんの奇行を受け入れている彼氏にしか見えなかった。
 だが。
 は?
 綾乃さんは目を丸くする。直くんは苦笑いする。
 いえ、仲間です。同志ですよ。
 そんな二人の、それからの毎日。
 
 

おまけ小咄 おわり

 

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