幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ハートフル

モモヨ文具店 開店中<最終回> ~モモヨ文具店とかふぇ みょうが~

   

 ああ、話がそれちゃった。
 お父さんと暮らすんだよって言われたときね、びっくりして、怖くて、泣いたわ。学区が隣だったから転校しなきゃいけないし、今まで続くと思っていたものが、突然断ち切られてしまうっていう、そういう断絶が身に沁みて、お先真っ暗になって怖くて怖くて。眠れなくてお祖母ちゃんの布団に潜り込んだりね。そうは見えない? まあ、失礼しちゃうわ。これでも繊細なのよぉ、わたし。
 引っ越しした日ね、「ここが百代のおうちになるよ」って言われたのは、文房具がびっしり並んだ父特製のお店だった。なんでもあるって思ったわ。鉛筆、万年筆、消しゴムにハサミ、付箋にのり……わくわくしてね。ああ、いいなぁって思ったの。文房具屋って夢があるでしょ? 今は、いろんな形態のお店があるけど、昔ながらの、地に足着けてるお店って独特の安定感があるわよね。飛んでないの。歩いてる。そういうお店だった。よく手入れされた飴色のガラスの引き戸、清潔な白いレースのカーテン。ちょっと奥にある上がりかまち。ここが家になるっていうことが嬉しくて、「お父ちゃん、わたし、このお店継いでいいかな?」って言ったの。そうしたらね、「おう! もちろんだ、百代が続けていってくれ」ってね。頭を撫でられたわ。怖さなんか吹っ飛んじゃった。そのころから、お店をああしたい、こうしたいって言うようになって。父に「企画書を書け。書かなきゃ見ないぞ」って言われたりね。小学校三年生に無茶言うわよねえ。そう。父は厳しかったわよ。昔ながらのお父さんて感じでね。でも、母に頭が上がらなかったのちゃんと知ってるんだから。
 どうして父が月世野にお店を、それもまったく知らないはずの文具店を構えようと思ったのかはわたしは知らない。ただ、一番はじめは母との結婚を認めてもらうため、でもしだいに、お店に来る人のためにいろいろやるようになって、結果、それが祖父母に認められたのね。昔は今より、うんと人通りも多かったから、かなり繁盛してたわ。「百代、鍵かけてカーテン締めてきてくれ」っていうのが閉店の合図。八時には閉まってたけど、きゅうな頼みがあれば店を開けてくれるっていうんで重宝されたらしいわ。
 ほら、裏手に官庁があるでしょ。きゅうに入り用になった物とかね。そういうのをひょいっと来て買っていくというのが、わたしが引き継いだときの基本理念になっているのね。
 店を手伝いながら、大学まで出て、隣町の、このへんで一番大きな文具屋に勤めているときに父が急死、そのあと母まで亡くなって……正直、あのころはいい思い出がないわ。店の経営なんてさっぱりでね。お店継ぐって言ったって、こういう継ぎ方じゃないわよ! って怒ったり泣いたり。毎日すっからかんになるまで働いて、経営の勉強して。それに月世野には商工会がある。父は、これに所属していたからわたしも所属しないといけない。今も所属してるけど、当時は二十ちょっと過ぎた子どもだもの、ぜーんぜん相手にしてもらえなかった。

 

-ハートフル
-, , , , , ,


コメントを残す

おすすめ作品

モモヨ文具店 開店中<36> ~帰り行く者~

モモヨ文具店 開店中<30> 〜三者三様〜

モモヨ文具店 開店中<25> 〜マーカーガール〜

家家族の肖像(5)~青春篇~

「伊勢物語」シリーズ 第二話「第二十四段 梓弓」より、さよならも言えないで

アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編 第37話「二人の母」

   2017/12/14

探偵の眼・御影解宗の推理 【嘆きの双子】22

   2017/12/14

カゲギョウ

   2017/12/13

生克五霊獣-改-3

   2017/12/13

怪盗プラチナ仮面 22

   2017/12/12