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ハートフル

モモヨ文具店 開店中<最終回> ~モモヨ文具店とかふぇ みょうが~

   

 そのころ、すでに高校再入学を目指して月世野に一軒しかないフリースクールでへろへろになるまで授業を叩き込んでもらっていた琉華ちゃんは(フリースクールの先生曰く、琉華ちゃんはピンチになるほど燃えるたちらしいです、だそうだ。先生も気力体力を持って行かれるとかふぇ みょうがで笑っていた)その日はさすがにりいかちゃんが心配でフリースクールを休んだ。
「友達できると思う?」
 何度もそう訊くので、だいじょうぶだいじょうぶと仕込みで忙しいタカの代わりに文具店の方に招いて、ココアをいれると、きょとんとした顔をした。
「あのおにいさんも、ココアいれてくれようとしたんだ。手伝ってくれたきれーなお兄さん」
「ああ、直くん。そうか、泊まったときね」
「たしか、そうだった気がする。いろいろ言ってくれた」
 わたしの知らないところで、直くんと琉華ちゃんは交流があったようだ。それを琉華ちゃんはあえて口にしようとはしなかったけれど、悪い思い出ではないと思う。琉華ちゃんの尖った表情が、一瞬だけ和らいだ。
 ともあれ、すったもんだのすえ、りいかちゃんの帰宅時間には、琉華ちゃんはめまいを起こしそうなほど緊張していた。 
 ほしぞら保育園のお迎えバスはアーケードの入り口で止まってくれるし、何人か降りる子もいる。その子たちと、手をつないで降りてきたのを見たとき、琉華ちゃんはちょと泣いた。
「よかったね」
 頭を抱え込んでやると、何度もうなずいた。
 琉華ちゃんは、ずっとりいかちゃんの親代わりだったのだ。わたしたち以上に緊張もする。手を離すと、ばいばーい! とりいかちゃんは、お友達に大きく振った。ばいばーい! と元気よく返ってくる。タカも店から出てきて、りいかちゃんを待っていた。
「ただいま!」
「どうだった? 大丈夫だった」
「あのねー、ひめかちゃんと、めのうちゃんと、きらくんがおともだちになってくれたー。こんどあそびにいってもいい?」
 琉華ちゃんは、ひざまづいて、りいかちゃんをきつく抱きしめていた。
「いいよ。いっぱいいろんなところ行っておいで。ね。タカおじさんもそうだよね?」
「いいとも。さ、ドーナツ揚げたから、おてて洗って、家に入りなさい。おかぜこんこんひくからね」
 その晩はちょっとしたお祝いになった。
 以来、「殴ってるか!」と訊くのが、琉華ちゃんの挨拶代わりになってしまったのはいただけない。 
 そのどれもが、新しいモモヨ文具店とかふぇ みょうがの出来事だ。
「ねー、おばちゃん。えとってなに? きょうねー、せんせいが、今年はいぬ年になりますっていったの。いぬってわんわん?」
 そうだよーとたあいない話をしながら、かふぇ みょうがの時間はゆっくり過ぎていく。ここでは誰でもが平等で、平和。そうありたいと思っている。
 そのとき、がたがたっとテーブルを揺らし、いらいらした調子で、ねえ、まだ? ねえ、まだ? と繰り返す子がいた。にぎやかな場所が苦手な圭くんだった。こういう場が苦手な子のための独立スペースが埋まっていて、彼は仕方なく仕切りのないテーブル席に着いていたらしい。
 席を立とうとすると、琉華ちゃんとお客さんの一人が、ぱっと圭くんを文具店の方に連れて行ってくれた。今回の移転時、タカの案で、文具店の方にも間仕切りで独立スペースを設けている。普段はお茶飲み場だったが、こういうときのセーフスペースにも使えるようにした。
「圭くん、向こうでご飯食べるって。あたし持って行くから」
 琉華ちゃんは慣れた様子で厨房に戻っていったが、お客さんの一人が、こそっとわたしのほうに寄ってきた。五十代くらいの品の良いご婦人だった。
「モモヨさん、勝手にカーテン引いて換気扇切っちゃったけどいいかしら。圭くんすこし混乱してたから」
「ああ、ありがとうございます。全然構いませんよ。蓬莱先生」
 めでたい名前のこの先生は月世野小学校の保健室の先生で、この店にそういうスペースを作るとき、いろいろアドバイスをもらった。今では常連さんで、ほどんと毎日、かふぇ みょうがでご飯を食べて行っている。それから実家でとれた野菜だといっていろいろ持ってきてくれる。カンパらしい。ありがたいことだ。
 月世野町の懐具合もあまりよろしくなくて、なかなか作れない。だから、こういう場所はありがたいのだと先生は話をしてくれた。
「助け合い、自助努力って、まあ、いろいろね、言う人はいるけれど。そういうのがもう成り立たなくなってる時代なんでしょうね。それを悲しいと一括りにしてしまうのは簡単だけど、新しい時代には新しい時代に即した考え方もしないとね。だから、本当にあなたがたが作ってくださる場所をわたしは嬉しく思いますよ」
 そんなことを言われたりもした。
 隠れていた、あるいは隠されていたいろんな物事があらわになって行くにつれて、それまで対応できなかった問題も起きてくる。それをちょっとずつでも動かすのは、いいことだろう。失敗したら終わりじゃない。またやり直せばいい。今はそういう風潮じゃないのは知ってるけど、そういう風にして行けたらいい。そんな風にタカもわたしも言った。蓬莱先生は、にっこり笑ってくれた。
 

 

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