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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

怪盗プラチナ仮面 21

   2017年12月5日  

 吾輩は不思議な南米人から仮面を託された。そしてブダペスト北方の古城で再会する約束をしたのだが……。

 

 
 リベロが仮面を取った。素顔を現した座長は大掛かりな幻術を演じた直後のせいか、公演前よりやつれて見えた。

 少女が帽子を受け取り、オッティーリエと名乗った女のところへ走り寄っていく。リベロが少女の背中に声を掛けた。

「マレーネ、お母さんと晩御飯を食べておいで」

 少女は「はぁい」と答え、立ち上がった母親を追ってカーテンの奥へ消えた。母子を見送ってから、リベロは吾輩に向き直った。

「私は今、57歳になる。妻のオッティーリエはミュンヘンの生まれで、チリからこの欧州に渡ってきて知り合った」
「なるほど。とても南米の方には見えないと思いました」

 リベロは軽く肩をすくめ、おどけた表情を作っただけだった。
 57歳というリベロの実年齢は意外だった。仮面を着けている時は背筋も伸び動作も精力的だが、素顔を見せるとたちまち70歳以上の老人に見えてしまう。

「子供を作るかどうかは正直なところ迷ったんだがね。妻が承知しなかった。娘の名はマレーネ。この5月に9歳になった」
「『マレーネ』。ドイツ人の名前ですね。今はどこかの小学校に?」
「いいや、通わせていない。旅芸人の暮らしだから、主に私が教育をしている」
「将来はステージでも役に立ってもらおうと?」

 リベロは首を横に振った。

「それはあり得ない。この一座は私の代限りだろう。チリから連れてきた芸人はこの18年間にみんな死んで、もう一人もいない。そこでエドゥアルト。さっきも話した通り、私の継承者としてこれを受け取ってもらいたい」

 リベロは肘の横にあった仮面を取り上げ、吾輩の前に置いた。

「これを? いきなりですか」
「そうだ。もう私が持っていても仕方がない」
「しかし、これからの公演はどうなさるのです?」
「私が出なくても他に演目はある。さっきのような趣向を喜ぶ客ばかりじゃない」
「そうでしょうか……」

 吾輩はその仮面を手に取って眺めた。十字型が描かれた目の位置は完全に塞がっていることに、吾輩はその時初めて気づいた。

「これはスペイン人に立ち向かって敗れたペルー人ディエゴ・アナワルクの遺品として、私の先祖に伝えられたものだ。私は先代のパラグアイ人アルカディオ・バレラからこれを受け継いだが、もう南米には力のある血筋は残っていないようだ。征服者の末裔たちが徹底的に根絶やしにしたからな」

 リベロは俯いて下唇を噛み、ため息をついてから続けた。

「だから私は後継者を求めてこの地に渡ってきた。そして引き寄せられるようにこのハンガリーに流れてきた。エドゥアルト、お前は小さい頃から、頭の中で不意に写真のような映像を見ることがあっただろう?」

 吾輩は少し間を置いてから、ええ、と答えた。

「私と同じだ。この純プラチナで打たれた仮面は、そういう能力を持った者にのみ受け継ぐ資格がある。それでも、最終的な決心を聞いておきたい。今日から5日後、下弦の月が中天に上る時刻、ヴィシェフラド(ヴィシェグラード)の城でお前を待っている。皇帝と国王の名において私を討伐せねばならぬというのであれば、お前の望むようにするがいい。自分にどんな力があるかは、その仮面に問うてみれば分かる」
 

 

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