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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

怪盗プラチナ仮面 21

   2017年12月5日  

 
 吾輩は両手を広げて「何にしても急すぎる話です」と困惑の意を表した。

 リベロは「まあ、いいじゃないか。それは持って帰ってくれ」と笑った。「何といっても軍隊だからな。安心して預けられる。そうだろう?」

 急に、リベロの姿の輪郭が薄くなり始めた。我々の間にあったテーブルも、ついさっきまでオッティーリエと名乗る女が向かい合っていた鏡台も、幻のように姿がぼやけて闇に溶け込んでいくのを、吾輩はなす術もなく眺めていた。
 

 ……一分も経たぬうちに、すべてが消え去った。

 寒風が吹き渡る夜の闇の中、吾輩は野の枯草に腰を下ろしていた。紫色の天幕は影も形もなかった。あたりには観客はおろか、人の姿も見えない。
 
 プラチナの仮面だけが、草の上でぼんやりと月明かりを反射していた。吾輩は慌ててそれを上着の懐に押し込み、周囲の気配を窺った。見ていた者はいないようだった。

 「その仮面に問うてみれば分かる」。意を決した吾輩は、リベロの言葉を直ちに実行に移した。

 自分の顔をその冷たい仮面で覆い、頭に固定した直後に起こったことの記憶は、再び草の上で目覚めた時にはほとんど消えていた。辛うじて頭に残っているのは、炎と、叫喚と、何本にも分かれて天に昇る黒い煙の映像ぐらいだ。そう、21世紀のある晩、日本の若い女性警官が見たのと同じヴィジョンの洪水を吾輩はもろにくらったのだ。

 その衝撃だけは強烈に覚えていたが、圧倒的な情報量をまったく制御できぬまま、気が遠くなった。

 意識を取り戻した吾輩は、胸の底に澱のように残る酸鼻なイメージを抱えたまま立ち上がった。リベロが自分に託したアイテムがどういうものか、一応は理解した。しかし連隊へ戻る間、このお荷物をどうしたらいいかという厄介な問題に気付いた。

 軍曹の身分を大事に思うなら、できるだけ連隊駐屯地から離れたところで捨てるに越したことはない。そして前夜のことは夢だと考えすっぱり忘れる……。

 だが、吾輩も19世紀の子であった。宿命的な一夜を経験してしまった後で、遂に自分の人生が見いだされたと考えぬどんな理由があるだろう?

 捨てるという選択肢は消えたが、隊内の所持品検査をどうやり過ごすかという問題は残っている。それでも結局、経験の浅い若い男の気楽さに任せ、何か良い方法が見つかるまで適当に隠しておくことに決めた。
 そして軍隊組織の執念深さは、こういう安直な心構えを見逃しはしないのである。
 

 私物箱の奥にしまい込んでいた仮面は翌々日の朝、抜き打ちの所持品検査で見つかった。

 幸い、その当時は盗賊の仮面としてまったく知られていなかったから、給与と不釣り合いに高価な品を営内に持ち込んだとして、それは没収された。何とか取り返す方法はないかと思いあぐねていると、当番士官がやってきて、大隊長室へ行くようにと告げた。

 大隊長に呼び出されるというのはただ事ではなかった。
 

 

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