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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

怪盗プラチナ仮面 21

   2017年12月5日  

 
 第6連隊に3カ月前着任したばかりのトローネル・ラヨシュ少佐は、正しくはまだ吾輩の所属する大隊の隊長として発令されたわけではなかった。12月1日付で辞令を受けるまでは「連隊本部付」であり、大隊長事務取扱のような立場だったのだが、事実上大隊長の職務をこなしていたので、誰もが少佐を「大隊長」と呼んでいた。吾輩が彼について知っていたのは、スレムに近いバナート地方出身のマジャール人貴族という程度だった。

 吾輩がドアをノックして大隊長室へ入ると、トローネル少佐は自分の執務机の正面に置かれた木の椅子を指差し、座るように命じた。机の上には、押収された仮面が置かれていた。

 少佐が立ち上がった。こちらに目をくれることもなく、窓の方へ近寄っていく。吾輩の目の前には空の士官用椅子が斜め方向を向いていた。床板に長靴の足音を響かせながら、少佐が質問してきた。

「お前が持っていたその品だが、どこで手に入れた」
「古道具屋で購入いたしました」

 それは、大隊長室に入る前に考えていた返答だった。

「古道具屋で手に入る物とも思えんが。お前にはそういう趣味があるのか」
「はい。その品には特に惹かれるものがありまして、いずれ高い値が付くものと思い、所持金のかなりの額を費消しました」

 どこの古道具屋か聞かれれば、ブダのユダヤ人街に見覚えの店が1軒あったので、そこの名を答えるつもりだった。それ以上の成り行きは運任せにしていた。

「ということは、お前はこれが何であるか知らなかったというのだな?」
「はい」
「そうか」

 少佐は斜め前に立ったまま、吾輩の顔を見下ろしている。もちろん軍曹ごときが大隊長の顔を見返すのは不敬であり、前を向いたまま黙っていた。

「ヴァダイッチ軍曹。お前は非番だった一昨日の晩、外出許可を取ってどこかへ出掛けていたな。どこへ行っていた」
「それは……」
「言いにくいか。馴染みの娼家へでも行ってたか」
「……はい」
「嘘をつくな」

 思わず見上げた少佐の顔には、見透かしたような笑いが浮かんでいた。

「嘘をつかんでもいい。私も同じ場所にいたのだ」

 思わず息を呑んだ吾輩から顔をそらし、少佐は再び歩きだした。

「お前の顔は見かけなかったな。どこにいた?」

 これ以上隠すのは得策ではないと思ったが、婉曲に「天井桟敷におりました」と答えた。

「そうか。私は平土間席の右側にいた。馴染みの女と一緒にな。だが『あれ』が終わった時、私は女のことなど忘れていた。女の方も同じだ。人生が新しい局面に入ったと確信したくなるような、そんな体験だった。そう思わぬか?」

 吾輩は大隊長の机の縁を見つめたまま、「はい」と答えた。

「そうだろう? たとえ奇術の類であったにしても、心を動かされるのは人間である証拠だと思いたい。だがな、……私は国王陛下に忠誠を誓う軍人だ。あれほど人の心を動かす技量であれば、市民としてでなく軍人として評価せぬわけにはいかん。そして舞台上であの男が着けていたものを、お前が持っていた。私はその理由を知りたいのだ」
 

 

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