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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

怪盗プラチナ仮面 21

   2017年12月5日  

 
 さすがに逡巡した。盗んだと疑われているのではないとしても、正直に話せばリベロを裏切ることになってしまう。とはいえ吾輩とて、上流家庭に育ってきた人間なりに自己主張する習性は身に付けていた。だから、階級差もわきまえず大隊長相手に取引をしようと考えたのだ。

「もし、私の願いを承知していただけるなら」
「うん。言ってみろ」

 非ドイツ人にもかかわらず、30歳という異例の若さで少佐の位に上ったトローネルは、そこそこに柔軟な思考を持ち合わせているだろうという可能性に吾輩は賭けた。

「その品は、彼から私が正当に譲り受けたものです」
「ほう」
「ゆえに私は、自分の所有権を主張したいのですが」
「ふむ、よかろう」

 少佐の視線が鋭くなった。

「お前の考えは尊重する。だが私には軍人としての立場がある。それは理解してくれるか」
「はい」
「ならば質問に答えろヴァダイッチ軍曹」

 吾輩は身を堅くして大隊長の問いを待ち受けた。トローネル少佐は机に歩み寄り、仮面を手に持って吾輩の前に戻った。

「確かチリ生まれのマリアーノ・リベロと言ったな。あの奇術師がお前にこれを譲った理由は何なのだ?」
「私にその資格がある。そのように申しておりました」
「お前に思い当たるフシはあるか」
「いいえ。正直その点は、とまどっているところです」
「確かめたいと思うか?」
「はい」

 仮面を持ったまま、トローネルは机の方へ戻って行った。そして引き出しの中に戻して鍵を掛けた。言葉を待つ吾輩の前で彼は椅子を引いて座り、顔を天井に向けて目を閉じる。そのまま数秒ほど何か思案していたようだった。

「お前が一筋縄ではいかん人間だというのは、私にも分かる。でなければあの南米人がお前を選ぶはずもあるまい。そこで一つ取引をしよう。お前がこの仮面を託された理由を、私は知りたい。これはお前の上官としてでなく、軍人としてでもなく、一人の男として。どうだ。異存はないか」

 吾輩は2秒ほど間を置いて「はい」と答えた。

「では具体的なことを言う。私はあのリベロという男に会ってみたい。お前に今後リベロと会う予定があるなら、私を紹介することを条件に、この贈り物の所有権をお前に戻す。それでどうだ」

 吾輩は自問した。大隊長に譲歩するのは裏切りだろうか? 決断は一瞬で下さなければならなかった。

「私に異存はありません。しかし、リベロが大隊長どのにご満足いただける人間であるかどうか、いささか自分には不安であります」
「心配は要らん。その男こそパリ警察が血眼になって追っている窃盗団の首魁であることは知っている」

 思わず吾輩は顔を上げて少佐の顔をまともに見てしまった。少佐は吾輩の目を見据えて、得意げな微笑を浮かべた。

「知らなかったのか。フランスが居にくくなってこのあたりをうろつき始めたのかも知らんが、パリからハンガリー警察に照会も来ている。それもこれも全部承知の上で、私はリベロに話を聞きたい。もちろん、みだりに警察に売るような真似はせん。分かるかヴァダイッチ」
「承知いたしました」
「そうか。後日はよろしく頼んだぞ。すべては皇帝陛下の御為であることを忘れるな」

 ハンガリー人であるトローネル少佐がこの時「国王」ではなく「皇帝」のためであると強調した意味を、吾輩はまだ知らなかった。
 
 

*   *   *

 
 
 

 

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