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ラブストーリー

オクターヴ上げて奏でる[1] ポロネーズ

   2017年12月11日  

 1990年代、東京。高校二年生の彰は、友人の姉の同級生、奏子と出会う。奏子は音楽専門の高校に通う三年生。
 初めは奏子に興味が無かった彰だが、彼女が弾くピアノ≪英雄ポロネーズ≫を聴くと、ピアノを弾いている奏子に心惹かれ始めた。

 

 僕等はいつも、音の中で生きている。
 そよ風の吹く音、川のせせらぎ、雨の滴。
 鳥のさえずり、虫の鳴く声、犬の遠吠え。
 目覚ましのアラーム、駅へ急ぐ人達の足音、車のクラクション。
 僕等はいつも五線譜の上を歩いていて、そこでは色々な音が流れている。
 そんな音に囲まれながら毎日を過ごしていると、ある日突然、聴こえてくる音があった。
 それは僕が歩いている場所よりも、もっと空の上から流れてくる音。
……なんて、そんなことを思ったのは、きっと彼女に出会ったからだ。

 真昼の空にぽかんと雲が浮かんでる。真っ青な空に、幼い子供が書いた絵のように小さな綿あめ雲が一つ、ぷかぷかと空を泳いでいる。
 最新機種のPHSを手に入れた僕も、そんな雲みたいに浮かれた気分だった。 
 本来こんな物を持っていても周りの友達が持っているのはポケットベルだから、連絡を取り合うのは不便なはず。だが、そんなことはどうでもよかった。
 友達がわざわざ公衆電話を探して、僕に電話を掛ける。その連絡先がPHSであること。
 僕が彼女の家に電話を掛ける。「うん、そう、今、ピッチ(PHS)から掛けてる。」と言いたいだけだ。
 相手の都合や便利性など、どうでもよかった。むしろ彼女の友達の前で、僕がポケットからPHSを取り出す。これが彼女にとってもセンスの良い彼氏がいるというステータスになると思ってる。
 彼女は僕が通う高校の隣町にある女子高校の二年生で、僕と同い年。一年生の時に彼女の高校で行われた学園祭で知り合った。
 彼女の高校は偏差値の高い進学校であり、可愛い娘も多く通っているということで有名だったから、僕等みたいな男子高校生はその学園祭へ、傷ついた獲物に集るハイエナのように群がった。
 特に僕等の同い年には、人気女優の森末広子が通学していると騒がれていたから、高校生だけでなく、中学生や大学生まで大勢来ていて、てんやわんやになっていた。
 無論、大騒ぎになると分かっているのに、森末広子が学園祭に参加するわけがない。
 そんな期待外れだった気分の時に、僕は彼女と出会った。
 出会ったと言うよりも、森末広子から目的を変更した僕等が彼女達のグループに声を掛けたのだから、寄って行ったと言う方が正しいのだろう。
 その三日後に僕は彼女とデートをして、お見合い番組のような拍子で付き合うことになった。
 彼女が好きだとか、愛おしいだとかの問題ではなく、学園祭で見かけた女子の中では群を抜いて可愛かったから、付き合うとなれば迷うことはなかった。
 そんな彼女とも付き合ってまもなく一年になる。だが、今の僕にとって彼女の存在は、着ている洋服や今日買ったPHSと同じで、他人が羨ましく思えばそれでいいと思うだけの存在だ。
 
 渋谷でPHSを買ったその足で僕は原宿へ向かい、高校のクラスメイトである原田崇と待ち合わせの場所へ向かった。
 夏の間はサーフブランドの洋服を着ていた崇だが、秋になってアメカジの洋服が欲しいから買い物へ行こうと誘われた。
 洋風の外観に造られた木造の駅舎から押し出されるように人が出ていくと、ケヤキ並木の続く表参道に向かって人の流れができる。
 僕はその流れに混ざりながら待ち合わせた歩道橋の袂まで歩くと、サーフブランドTシャツの上から、赤いギンガムチェックのポロシャツを羽織った崇の姿を見つけた。
 隣を見ると三人の女性が立っている。一人は崇の姉、彩乃さんだった。
「よう」と、手を挙げて僕に声を掛ける崇の隣で、彩乃さんがにこやかに笑いながら、「彰君、久しぶり。」と言ってきたので、僕は軽く頭を下げた。
 肩まで伸ばした髪を茶色く染めて、夏の間にこんがりと日焼けした弟とは相反して、姉は黒くて長い艶やかな髪と、白い粉でも塗っているような肌の色。
 彩乃さんは僕の一つ年上だが、とても大人びていて二十歳くらいには見える。
 その横にいる二人は、若者の街と言われている場所には、どこか不釣り合いの姿に見えた。
 一人は彩乃さんのように長い黒髪だが、髪に艶は無く、面長な顔立ちに一般的な金属製フレームの眼鏡を掛けている。
 もう一人は、毎日、手洗い石鹸で洗っているのかと思わせるほどに、傷んだバサバサの髪をポニーテールに束ねていて、何のブランドかも分からぬ細見のジーンズと、白いシャツの上から、焦げ茶色の地味なカーディガンを羽織っている。
 この二人を見て彩乃さんには、僕の思う女の特性を感じた。
『類は友を呼ぶ』とも意味は違う気もするが、男が友達をつくるならば、真面目な奴は、真面目な友達を。見た目を意識した奴はファッションセンスの良い友達を選ぶ。
 お洒落だと思う奴、顔が二枚目だと思う奴と友達になり、地味で不細工な奴が友達だと、自分の価値まで下がるような気がしてしまう。
 しかし、僕が知る限りでは、美人という生き物が美人の集団で群れているところなど見たことが無い。外見が自分よりも劣っている女性を連れて歩くことで、自分を引き立てているように見えてしまう。
 そして美人の友達になった者は、その女といることで自分のマイナスをカバーしているのだろうか。
 彩乃さんは流行りのファッションをするような女性ではないが、誰が見ても美人だと思うから、この二人もきっと引き立て役なのだろう。
「ねぇ、折角だから一緒にご飯食べようよ。」
 彩乃さんの誘いを受けると、崇は照れ臭そうに「嫌だよ、彰、行こうぜ。」と言って、逃げるようにその場を離れた。
「彰君、またね。」
 僕が頭を下げると、彩乃さんと眼鏡の女は微笑みながら手を振っていたが、もう一人の女はケヤキ並木に目を向けていた。

 

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