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ラブストーリー

オクターヴ上げて奏でる[1] ポロネーズ

   2017年12月11日  

 僕は唾を飲み込んで、奏子さんに思いの丈を伝えた。
「私ね、結構、慎重派なの。何を選ぶにしても。人だって、物だって。ピアノ買うのだって色々な物を試して比べてから買ったし、レッスンの先生だって、教わってみて良かった人から受けるようにした。だから、あなたのことは知らなさすぎる。……だから付き合えない。」
 すんなりと上手くいくはずがないとは思っていた。けれど、諦めるには早すぎるし、気持ちに収まりがつかない。それに、奏子さんの言葉には余計な例え話が多くて、頭の中を混乱させる。
「それとこれとは話が違いますよ。僕はピアノや、その先生じゃない。ものの見方が違うんだ。好きな人を見つけることは、物選びじゃない。じゃあ奏子さん、キスは?セックスはどうするの?いろんな人としてみて、一番良かった人を選ぶわけ?」
 自分でも何が言いたくてこんなことを言っているのか分からなかった。こんな言い方をして、奏子さんが共感するわけがないことも分からずに、口が勝手に喋っている。
『恋は盲目』の意味だろう。……あのショパンのピアノ曲を聴くまでは、奏子さんに彼氏などいるわけがないと思っていたのだから。
 しかし、あの日、周りの人に天才と呼ばれていた演奏を聴いてから、奏子さんの姿かたちまで変わって見えた。今だってそうだ、『先生』と聞いただけで男の姿しか思い浮かばなかった。
 今の一瞬で、頭の中には奏子さんがピアノを弾き、その先生とやらが腕をとり、指をなぞる姿が浮かんだ。僕は、その、のっぺらぼうの先生に嫉妬しているのだ。
「あなた馬鹿じゃないの!大体、まだ、それ以前の話もしていないのに、なんで全部そこに繋げるの!結局、そういうことがしたいから彼女がほしいわけ?」
 流れは最悪な方向へ進んだ。こんな告白の仕方は、トレンディードラマの二枚目俳優でも台詞をこなすのが難しいだろう。……そして、最悪な話の途中でPHSは電池を使い果たして切れてしまった。電話機にまで呆れられてしまったようだ。……。もう、やめておけと。
『終わった。……』その言葉だけが、頭を過った。
 制服を着ている自分が滑稽に思えた。もう、この姿は偽物なんだと。……学校を辞めたら、自分の肩書は何になるのだろう。
 人間が大きな円の中で生活をしているとすれば、今の自分は、その外にいる気がする。そもそも、そんな自分が奏子さんに告白をしたところで受け入れられるわけもないし、円の中に戻ることもできないのだ。
 これからの自分が何も思い浮かばなかった。学校、仕事、友人、恋人。……途方に暮れながら、当てもなく、ただ目の前の道を歩いていた。
 
 

≪つづく≫

 

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