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カゲギョウ

   

杉下 浩一は普段は仕事のない運送業者だが、表向きの仕事とは別に、ここ数年「カゲギョウ」をしていた。今時珍しいAI管理もされていない、ちょっと変わったカラーリングのダンボールをトラックに積み込み運ぶのである。

カゲギョウは決して表沙汰にはできず、しかし決して他人に対して迷惑が及ぶ行為ではないと言い習わされており、口止め料として相当高額な報酬を受け取ることになっていた。

反AI派である杉下はやる気満々で仕事をこなしていくが、往々にして練られた計画通りに事は運ばないものであり……

 

「黒ダンボー三つ届きましたっ」
 電話番の藤家 恭子が受話器を手で塞いで、声を極力殺し、それでいて気合いに満ちた合図を飛ばすと、ダラダラと仕事をこなしていた従業員たちの背中に熱気がみなぎった。
 作業服のままパソコン作業をしていた杉下 浩一もまた例外ではなく、ぎゅっと鋭くした目で五人の従業員を見回すと、軽く頷いてから気合いを発した。
「おうしっ、ここからが本当の仕事だ。最速で行くぞっ。だが絶対にミスをするなよ。信号無視はもちろんだが、シートベルトも忘れずに行こう」
「了解」
 従業員たちも杉下のハッパに負けないだけの気迫で応じる。
 皆、いい表情をしている。険しいが後ろめたさのない、プロの仕事人の顔である。
 もっとも杉下としては驚きはなかった。これからやることの重大さからすれば、最低限この部屋にいる幹部たちには、限界までの集中力を要求したいところだった。
「社長、追加のオファーが来ております。黒ダンボーが一つに、青ダンボーが二つだと町田梱包さんが」
「待たせとけっ。行政の現場がうるさくねえんだから、一日止めといてもいいだろう、あっちの方は。ヤバい俺たちがリスクを負うことはねえ」
 藤家のオペレートに杉下は断固として拒否を突きつけ、古びた車のキーが胸ポケットに入っていることを確認した。
 これからする「仕事」には、AI制御の自動運転車はおろか、現行のカーナビすら使えない。
 仮想キーで発信などという危険な手癖を示すわけにはいかなかった。
「ルートはどうする、社長」
 杉下に劣らないスピードで駆け出した竜崎がぼそりと聞いてきた。
 元々同級生ということもあり、普段は杉下をからかったりしているのだが、スイッチの入り具合はさすがである。
「483番線は使えない。カメラがAI管理になってる。紺野文具店の私道から抜けていこう」
「長谷部酒店はどうだ」
「本拠を引っ越したから無理だ。いずれ改築祝いに寄るところだが、そのためにも今日を無事にこなさなくっちゃな」
 杉下もまた、社長と言うよりは「任務」のリーダーとして、竜崎にビシリとした態度を取った。この厳しい現場では序列は極めて重要だ。
 指揮系統が乱れて仕事が失敗すれば、影響は個人レベルにとどまらないし、「杉下のんびり宅配」だけの問題でもなくなってくる。

 

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