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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

探偵の眼・御影解宗の推理 【嘆きの双子】22

   

 地下室に現れたのは、御影と輪都が城里家に立ち寄る前に訪れた医院の院長だった。

 医師が関与したために、城里夫妻に協力しなければこの“罪人の秘密の部屋”と呼称されることもなかったかもしれない。

 美咲と美幸がそれぞれ双子を産んだときの出生について、医師はある隠匿をした。

 幸太と美香の不幸な人生も、そこからはじまっている。
 

 そして医師はすべてを語りはじめる。京介はその言動を咎めるが、それは自白にひとしかった。

 ついに、美幸の死の真相も明らかに…

 

 御影のかすかな視線は地下室の入り口を見据えていた。

 ドンッと心臓が跳ねた京介は瞳孔がひらくように目の当たりにした。なぜここにきたのか、探偵によびだされていたのか、きてはならない者が対峙して畏怖につつまれた京介、そして美咲も愕然の表情をしながら狼狽している。なにを語るつもりなのか、その口から城里家のなにを。

 言い知れぬ恐怖が京介と美咲の顔からいやおうにも浮かびあがっていた。

 御影の視線のさきに誘導され一瞥するも、その人物は静かにすがたをみせた。

 氷室と小柴はすでに視界に入っていたため気づいていたが、事件の解決の糸口、御影の推理の裏づけになるとにらんでいた。

「十河院長…」

 杖をつきながら現れたのは十河医院、十河高弘だった。

「美咲さんと美幸さんが産んだ双子の命運を隠匿した張本人です」御影はさらっと紹介した。

 何を隠匿したのか、それはまだわかっていない。しかし、京介と美咲はその事実をしっている。だから狼狽している。それは包装されて金庫の中で封印している事実だ。

 開いてはならないことだった。

 老人の傍らには息子の十河広志がつきそっていた。

「城里の坊ちゃん、申し訳ございません。息子が探偵にすべてを話してしまった。もはや隠しとおせることではありません。できることなら私もすべてを白日の下に晒して、背負った罪を軽くしとうございます」

「きさま、私の処遇をこれまでうけておきながら、ここにきて裏切るのか!」

 輪都はちいさな声で御影にいった。「いまのって自白じゃないの?」

「黙ってろ、そんなのは端からわかりきったこと」

 主と仕える者の一人としてかつての医師は脅えながらその場に崩れ床に突っ伏した。

 息子はそばに駆け寄った。「おやじ、そこまですることはない」京介をにらむように顔をあげた広志だった。

「おまえはなぜ探偵にリークのようなことをした」

「京介、わかってくれ。おまえが過去にそんなまねをしていたことに俺は心底驚いている。おやじが数年前に話してくれたとき、俺は驚いたんだ。“美幸”が死んだ理由が、まさかおまえが手をかけていたことなんて知りたくなかった」

「き、きさま──」京介の眼光は息子ではなく、その父親にむけられた。「なにをいったんだ」

 憤怒が沸騰してしまった京介は罵声を吐いた。

「長い長い罪の意識が私の身を衰退させていた。私は死を目前にどうにかこの背負った罪を語りたく償いたいのです」

 ちらっと双子の子供に奥まったまぶたの下からのぞくようにみあげていた。「陽太くん、美姫さんは気の毒すぎる、あまりにも気の毒なのです」

 嗚咽しながら涙ながらに訴えていた。

 広志は父の背をさすりながらかつての友に敵意の眼光をむけて事情を語る。

「父は癌に侵されている。もう長くない。京介の企みに父が手をくだしたことを悔やんでいる。罰があたったんだって、父は嘆いている。双子の子供たちまでとんでもない人生を歩ませてしまったことに後悔しない日々はないと──」

「なにを勝手なことを」京介は手を払いのけ、唾をとばすほど興奮していた。

「おまえはこのまま逃げつづけるのか、美幸さんを殺したのはおまえなんだろ!」広志は立ち上がって京介と対峙する。

 体型も背格好もおなじくらいだが、腕っぷしは広志のほうが上であった。

 金にものいわせ面倒な問題ごとはすべて執事らに任せて、その後は素知らぬふりをして背をむけ、なにごともなかったように日常に身をおくのが、京介という男だ。

 広志はそんな京介を友としてこれまでずっと心をかわしてきたが、恩恵をうけたためしはない。肩をならべる親友が広志だけであった。

 だがいま、この辺り一帯の地主でもある城里財閥の頭首である京介に敵意のガンをとばしている。

 美咲が京介の腕にしがみついた。

 人間が本気の怒りをみせたとき、おなじ精神にいたっていない者はどうやったって勝てはしない。沸点の怒りにいち早く達した者のほうがすべてにおいて勝っている。

 その理由が愛からくるものだとしたら、どんな富豪で金をもっていてもぜったいに京介が、広志を従えることは不可能だろう。

「あなたたち夫婦は、俺を騙していたんだ──ゆるすわけにはいかない。俺の恋路を奪った者として」

 京介と美咲は顔をゆがませた。なんのことをいっているのか見当もつかない様子にさらなる怒号で広志は言い放つ。

 

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