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ラブストーリー

【In the rain番外】at Christmas time

   

『In the rain』番外編

23日に行われる発表会。
突然、啓介は、それを最後にピアノをやめると言い出した。
啓介は、これからの事を考えての事だったのだが、花音には、その言葉が別れる事なのだと感じていた。

発表会当日、花音の様子が変な事に気付いた啓介は、休憩の最中に控え室に戻った花音を問いただす。
だが、返ってきた言葉は・・・?

 

 雨は夜更け過ぎに・・・そんな定番ソングが街中流れている中、花音は今週火曜日に行う、教室の発表会の準備に追われていた。
 祝日のその日、小さな会場を前々から借りていて、生徒達のレッスンも、それに向けての物になっていた。
 個人教室の発表会は、全てを先生が準備しなければならない。勿論、親しい講師達が手伝いに来てくれる事もある。そしてこの日は、講師になってからずっと親しくしている夏樹が手伝ってくれる事になっていた。
 まだ昼前の時間を見て、花音は当日の予定や、作り置きしておくプログラムのコピーを取っていた。
 その時、勝手にドアが開いた音を聞いて、玄関の方を見やった。

「花音、いる?」

 入ってきたのは啓介だ。
 今日は日曜日。仕事が休みなのは知っていたから、勝手に開けてきたのが啓介だと分かっていた。

「何、発表会の?」
「うん。一応、タイムテーブルだけは用意しておかないと」

 花音がデスクで何やら書き物をしているのを覗き込んだ啓介は、それを眺めてから、壁に貼ってあるカレンダーに視線を移した。
 発表会は23日、そして次の日はクリスマスイブだ。だが、この発表会の事で頭が一杯なのか、今の今迄イブをどう過ごすかという話は、一切二人の間でされていない。
 啓介は、それに少々気を揉みながら、とりあえず発表会が終わるまで、話を振らないでおこうと思った。

「ね、啓介。練習してる?」

 いきなり先生になってしまった花音に苦笑しながら、啓介は「やってるよ」と答えた。
 一番最後に弾く事になっている啓介。一番派手な曲を持ってきた所為でもあるのだが、やはり男が弾くと迫力が違う。まして、啓介がレッスンを始めてから、昔の感覚を取り戻したのか、上達の仕方が格段に違った。
 あっという間に生徒間の中で一番上手になってしまったのだ。

「本当は、啓介の後にアタシ弾くの嫌なんだけどね」
「何で?」

 笑いながらそう言った花音に、啓介は喉で笑う。

「今の啓介なら、先生だってやれるもん」
「俺は無理。花音みたいに、子供相手出来ないからな」
「そうかもね」

 以前、啓介の姉の子供を預かって、手を余していた事を思い出して、花音はチラリと啓介を見上げてペンを置いた。

「ようやく、構ってくれる?」

 情け無い顔を向けた啓介は、やっと自分を見てくれた花音に手を伸ばす。そして、顔を近づけて軽く口付けた。
 入って来て直ぐに交わしたかったキスを、ようやく実行できて、啓介の顔が喜んだ。

「先生の時の花音には出来ないからな~」
「何それ。アタシはアタシでしょ?」

 花音が笑ってイスから立ち上がり、デスクを離れると、啓介がレッスン室に入って行った。

「ね、弾いていい?」
「いいよ」

 花音はそれを見てキッチンに入り、コーヒーを淹れ始めた。弾き出した啓介の音に耳を傾けながら、ふと遠くを見詰めて、小さな溜息を吐いた。

 

-ラブストーリー


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