幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

探偵の眼・御影解宗の推理 【嘆きの双子】24

   

 家政婦の長柄が物音を聞いて駆けつけると、京介が夫人を殺したのを目撃した。

 だが、どっちを殺したかはわかっていない。わかろうとしていない。

 手にかけた理由に長柄も耳を疑った。隠匿する必要があり、長柄にすべてを任せた。

 すでに小さな棺桶がふたつおかれた地下室へとそのご婦人の遺体を運んだ。

 奥様も事情を把握して手をかした。自分と瓜二つの存在が本当に消えてしまった。嘆くよりもなにか晴れ晴れとしている。

 長柄は驚嘆していた。

 だが、こうして“罪人の秘密の部屋”が完成した。
 
 

 しかしそれは新たな悲劇を生むだけだった…

 

 清算の支払いを完済する気持ちが表面化した。

 真正面をみると視界にはいらない所有物がひとつ右往左往している。

 ゴミを捨てるように軽快な気分のまま通路の装飾として手頃な花瓶を両手に握りしめ背中越しから近づく。

 眼前の女は気配に気づいたのか振り返った。しかし、それはもう遅く、花瓶を振り上げた状態で目と目が合った。

 信じられないという顔がとびこんできた。しかし、振り上げた花瓶の手にブレーキはかからない。

 一瞬にして振りおろした。

 庭で育てていたさまざまな種類の花を生けていた。鈍く重々しい音が通路を走る。だれ一人この騒音に気づいていない。

 床に倒れ込んだ女は頭を割られて出血が広がる。

 京介が手にかけたのは美咲か、美幸か、それすらもどうでもよかった。

 対抗するふたつの存在をひとつにしてしまえばいい。

「見るに耐えない姿だ、憐れめ」

 呆然とたたずむ京介。無表情。無気力。脱力感に浸った。京介の背後から小走りで駆け寄るのが耳にはいった。

 家政婦の長柄だった。

「奥さま!」

 家政婦のその言葉に首をかしげる京介。美咲なのか美幸なのかわからない。以前はよくわかっていたが。

「旦那様、どうして──」

「おれはどっちを殺した」京介は無情な顔でつぶやく。「長柄さん、わかるんだ」

 通路に後頭部から出血しながら倒れている女を見下ろす。

 長柄はその女の様態を看る。体を揺すっても声をかけても反応はない。確実に死亡している。まだ皮膚はあたたかいが脈はなかった。これからどんどん体温はさがっていく。体内を流れる血液のポンプは停止したからだ。

「なぜこんなことを、どうしてですか」

 涙ぐむ家政婦だった。どちらだったにしろ長柄は姉妹からよくしてもらっていた。だから娘のように思っていたというのに、まさかこの悲劇。信じられなかった。

 一家の主がこんな惨劇をしてしまうなんて。

「いらなくなった」静かに厳かな口調で京介は話す。「落ちつきたい生活をしたくなったのかもしれない。近ごろ疲れやすくて、ひとりいればいいだろ―」

 長柄は口を手でおさえていた。目をとじて悲しみに暮れた。

 京介は主として命令する。「隠し部屋はいくつもある。みつからないようにしまっておけ」

 暴君のような物言いと立ち去り方だった。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
-, , ,


コメントを残す

おすすめ作品

8月のエンドロール 14

見習い探偵と呼ばないで! Season13-6

見習い探偵と呼ばないで! Season20-14

腐女子的妻の策略 前編

自称天才数学者の推理記録 記録2 第8話

怪盗プラチナ仮面 28

   2018/01/23

生克五霊獣-改-14

   2018/01/23

オクターヴ上げて奏でる[8] オクターヴ

   2018/01/22

アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編 第39話「踏み出す一歩」

   2018/01/22

君がいない世界なら、僕は生きていけない・4

   2018/01/19