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サイケツシャたち

   

多過ぎる血の気を静めるべく献血に行った藤沢 隆一は、チラシ配りのバイトをしていた青年に声をかけられた。

妙な男だったが青年は意外と気さくで、何より競馬等々の大穴を確実に当てる能力を持っていた。藤沢は彼に心酔し、やがてどこに行くにも一緒の親友となった。

しかし、後にバブルの崩壊と呼ばれることになる情勢の変化、青年は姿を消す。妙に予言者めいていた彼の正体とは……?

 

「先輩、買ってきましたよ。第十レース五枠から総流し。でも、これでいいんですか? ブービー人気ですよ」
「ああ、間違いない。できりゃあ友達にも伝えといてくれ。そうだな、公衆電話からでもいいか」
 藤沢 隆一から馬券を受け取った青年は、テキパキと指示を飛ばしてから満足気に頷いた。
 その表情は勝利を予感しているというよりも安堵に近いような雰囲気があった。
「藤沢、サンキューな。これでしばらく食うには困らねえ」
「大げさですよ、先輩。先輩ほどのお人なら金の問題なんてないでしょう。ま、俺らもそうですがね。人手の足りない大学の事務室に話つけて、テンプラかけりゃあ一万円にはなる。実際に現場に入れば、十二時間あれば大二枚は下りませんからね。まったく、再開発ブーム様々ってやつですよ」
「儲かってるらしいな、若者は」
「ははは、何を言っちゃってるんですか。先輩だって若者の一人なんですから、たまには運動を兼ねて現場に入ってみたらどうです? 時間が経てば経つほど給金は良くなりますよ」
「どうだろうな、それは」
 青年は、熱を上げる藤沢の言葉を軽く受け流すようにしてから、引き馬が行われているパドックに目をやった。
 このあたりは馬券を買う際の判断材料ではあるのだが、馬券を買っても気になるものである。
 もっとも、無名の地方競馬レースに三十万円も賭けた青年の表情には不安はなく、その目にはむしろ退屈に近い雰囲気さえ宿っている。
 藤沢が細々と青年の世話を焼いているうちにレースが始まった。いわゆる中央ではない地方競馬の中でもかなりマイナーな競馬場でのオープン戦ではあるが、超好景気の最中のこと、かなり盛大な歓声が上がる。
 かなり多数の馬が出ているが、逃げ馬はただ一頭、それもその逃げ馬の力だけが抜けているのだから、勝負というよりセレモニーの趣きが強い。
「相変わらずいい走りをしますよ、こいつは。サラブレッドばかりがもてはやされる中央の連中には分からんでしょうがね。何しろ気性がいい。こんな単騎逃げの展開でもかかったりしねえってんだから」
 藤沢が言うまでもなく、このレースで一番人気の馬は完全に仕上がっていた。
 ゲートを最高のタイミングでポンと飛び出すと、そのままススっとインの柵ギリギリにまで馬体を寄せ、後続馬ときっちり体五つ分のリードを保ち始めた。
 強力馬を先に行かせての直線での追い込み、あるいはポカ狙いの展開、その気になればいくらでも差を広げられる状況だが、「彼」はまったく無駄な力を使わない。
 蹄の音の大きさでリードした距離を察知し、それを保とうと意識している。
「ほら、見て下さいよ先輩。完全に脚をためてますよ。分かってるんですよ。まったく大したヤツだ。これなら転籍しても絶対にやっていける。JRAの最優秀アラブの表彰だってイケますよ。俺はアイツの仔を引き取って乗るのが夢なんだ」
 藤沢は完璧に熱くなっていた。
 また、競馬場に詰めかけた、熱心な競馬ファンたちもこのレースの意味を知っていた。
 この勝負に勝てば「彼」は中央競馬に移ることになっている。そういう話が馬主から出ている。もちろん、「彼」ほどの馬が移籍してしまうとなれば、地元の競馬場にとっては興行の目玉を失うに等しい。
 まず飲める話ではないが、無理を通せるだけの金を馬主が用意したのだ。折からの好景気で受けた仕事の先約金を当て込んだともっぱらの評判である。
 ただ、藤沢たち地元ファンからすれば、そんな金が絡んだ話ではなく、地元の英雄の「上京」を見守りたいという感情で動いている。

 

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