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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

怪盗プラチナ仮面 24

   

 ドイツに入国した吾輩とマレーネは、幻術を操る大道芸人として生計を立て始めた。

 追跡者の目を気にする生活にも、ささやかな幸福があった。

 

ミュンヘン

 

 ドイツ・オーストリア国境の町で馬を手放してから、次第に現金の持ち合わせが厳しくなってきた。マレーネの発案で、天気の良い時に人の集まる場所で大道芸を演じ、懐の足しにしようという話になった。

 マレーネは簡単な手品ができた。彼女の後ろで頭からシーツを被って仮面の姿を隠した吾輩が、軽い「幻実」を発動させながら進行役を務めるのだ。寒い中、道で足を止めて見入ってくれる人も多く、投げ銭だけでかなり稼ぐことができた。

 追っ手の気配は途絶えていたとはいえ、時折吹雪になる中、徒歩で旅を続けるわけにもいかない。荷馬車に便乗させてもらいながらバイエルン領内を南下してトラウンシュタインという町まで行き、そこから汽車に乗ってマレーネの母が生まれたミュンヘンに出た。

 マレーネは、母の故郷であるこの町に来るのは初めてだと言った。

「確かにママが生まれたのはここなんだけど、小さい時からいろんなところを旅してたみたいだから」
「じゃあ、ママの両親や親戚がいるわけでもないのか」
「うん。パパと知り合ったのもウィーンだって言ってたし」

 それでもマレーネは、しばらくここに滞在しようという吾輩の提案を二つ返事で受け入れた。我々はハンガリーからの長旅に疲れていた。それに、公園や大通りで芸を披露すればすぐに人が集まるという、都会ならではの魅力は無視できなかった。

 こうして1896年が明けた。吾輩はマレーネにしかるべき教育を受けさせる必要性を強く感じるようになっていた。小学校の就学率が5割にも満たないハンガリーならば、遅れて学校に入るのはさほど恥ずかしいことではなかった。しかしドイツに来るとそうもいかない。時間が空いた時、吾輩がドイツ語の読み書きや算数を教えるだけでは限界があった。

 ミュンヘンに腰を落ち着けて1カ月ほど経った時、宿屋で夕食を取りながら「どうだ。ここで学校に通う気はないか」と聞いてみた。たちまちマレーネの表情は曇った。

「私、学校は嫌い」
「いつまでも子供じゃいられないんだぞ。大人になるまでにしっかり勉強しなきゃ駄目だ」
「エディが教えてくれてるじゃない」
「俺は元兵士だ。ちゃんとした先生に教わった方がいい」

 マレーネはスプーンを止めたままスープ皿を睨んでいた。そして決心したように顔を上げた。

「分かった。学校に行くから、エディお願いを聞いてくれる?」
「お願い? どんな」
「道端でじゃなくて、ちゃんとしたステージで公演できないの? パパやママがやってたみたいに」
「大勢客を集めてか?」
「もちろんよ! お客が集まらなきゃ商売になんないでしょ」

 マレーネには、父親がそうしてきたように、仮面を着用した「エディ兄さん」が大幻術を披露して満場の喝采を浴びることが理想らしい。しかし吾輩には追跡者の目が気掛かりだった。10人もの殺し屋をハンガリーまで送り込んでくるような連中だ。このミュンヘンが安全だという保証はない。

 今も連中が諦めていないなら、「鬼さんこちら」と言わぬばかりに派手な活動をするのはどんなものだろうか。
 

 

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