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モラトリアム・スコア 「無職」でいるために

   

南関東総合大学の文学部大学院に籍を置く栗島 将吾。彼は分析力と探究心に優れており、ほとんど修正なしで修士論文を通したものの、大学講師の口がなく、以来三年間、浪人中の身の上である。

しかしそんな彼は大学内で生活をしていた。学生たちが「モラトリアム・スコア」と呼んでいるポイントを稼ぎ、大学内で生活するための代価として支払っていたからである。

社会人「未満」で「ニート」とも呼ばれない立場に安住したい若者たちは、今日もポイントを稼ぐためあらゆる行為をこなしていく……。

 

 
「仕上がりました、館長」
 図書館内とは思えないほど明確で朗々とした栗島 将吾の声が響き渡る。
 周囲から注がれるけげんな視線などまったく意に介さず、どさどさと、十冊ほどの分厚い本を館長の前に積み上げてみせた。
「どれどれ……。うん、いいだろう。栗島君、君の仕事はいつも的確だね。兄貴も君にならボーナスを支払うことを惜しまないだろうね」
「ははっ、やめて下さいよ、働くなんて。俺はそれが嫌だから、今こうやっているんですから」
 照れ笑いを浮かべつつではあったが、しっかりとした本気の拒絶反応を感じ取った館長は、頭をかきつつ謝ってみせた。
「ふっ、すまんすまん。そうだったな。それでは、より楽で稼げることを進めるといい。菅井君が折り込んでいるから手伝ってくるといい。時間単価で千百ポイント出すと、事務課長から言質は取っているからね」
「マジっすかっ! そりゃあ、いいですね。なあ、聞いたろ。皆も終わったら来いよ。で、家賃を払い終わったら、鍋でもやろうぜ。『ヤシキヤ』で材料を頂いてよ。学食の方がいいか」
「いいですね、それなら、あさってにでも」
 図書館長の思わぬ言葉に、いよいよ栗島はテンションを上げた。室内で栗島と同じ作業、寄贈されてきた図書、雑誌類へのタグ付けを続けている仲間たちも同様だった。
 事実上、今回の仕事のキャンセルはできないが、ノルマを片付けて事務室に早く向かう分にはまったく自由だ。
 栗島たちは、ひとしきり喜びを表現してからは一様に口を閉じ、熟練の職人のような手際でタグやシールの貼付を進めていった。
「よう、まだやってるな。……おお、良かった。今回はまだタップリあるな」
「願書出願期限の一月前だからな、ま、学校側も本気だよ。特に今回は三つも専門を立ち上げたからな」
 誰よりも速く作業を終わらせた栗島が事務室に駆けつけると、大学の学部一年時代からの栗島の悪友である菅井は、幸いにもと言うべきか、紙の山に囲まれていた。その内訳は、数十ページにおよぶパンフレットの冊子とペラ紙刷りのチラシ、そして、ノンブルが振られた入学願書である。
 入学願書に振られたノンブルには、一見ランダム的だが実は規則性があり、どのパンフに反応して願書を出してきたのかが大体分かるようになっている。
 つまり、チラシだけでも数種類あるのだが、その制作費は当然、入学費や学費による、
「学科は何だ?」
「文学と経済と、後は法学だったかな」
 反射的に口から出た問いに、菅井もまた反射的に応じた。もう数万枚のチラシと格闘しているだけあって、内容に関しては並の職員よりもずっと理解が進んでいる。

 

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