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モラトリアム・スコア 「無職」でいるために

   

「……これは、物凄いモチベーションですな。終日あれだけ働いておいて、まだデータ入力を続けようと言うのですか。ウチの社員なら有り得ない」
「しかし、過労死が心配ですな。これだけ根を詰め続けていると」
「若いのだから問題ないでしょう。それに、彼がしているのは『仕事』じゃないのでね」
 驚きと称賛と心配が混ざったような表情を隠さない、某有名企業の経営者たちに、まだ若々しさを残す学長はばっさりと切り捨ててみせた。彼らが見ているスクリーンには、深夜にも関わらず一心不乱に作業を続ける若者たちの姿が映っている。
「長年の課題でした、この問題は」
 しばらく時を置いてから、一転して得意満面の表情で学長は続ける。
「どんなに企業が人手不足で色々な仕事があり、皆が仕事をできる状況でも、必ずかなりの失業者、無業者が生じる。結局彼らは働きたくないから働かない、もっともな動機ですが、だからこそ人手不足は解消しなかった。働きたくないのだから当然、と思われるところですが、しかしここに逆転の発想があった」
「働かない人間に罰則を設けて強制的に働かせるのではなく……」
「そう、彼らのモチベーションを刺激してやればいいんです。彼らは働きたくないがために、かなりのことをしてきました。必死に勉強して大学に入り、のみならず大学院という高度な機関にまで進み、食べたいものも食べず……、そうした彼らにとって、バイト程度の任務などどうってことはありません。実際彼らは嬉々として仕事に就いているではありませんか。働きたくないという意思を貫くためにね」
 経営者たちは学長の言葉に胡散臭いものを感じて顔を見合わせた。
 しかし、反論の言葉は出なかった。どうしたってやる気が出ない、サボりたいと考えるのは当然で、その解消をどうするかは企業業種を問わず、喫緊の課題だったからだ。
「この流れはあらゆるところに根付きますよ。何しろ、熱意のない人間をエリート作業員に化けさせてしまえるわけですから」
 学長は得意満面で語り続けていた。
 
 

≪おわり≫

 

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