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ラブストーリー

オクターヴ上げて奏でる[5] ラ・カンパネラ

   

崇の万引きが原因で彰との交友を禁じられた奏子は、父に嫌悪感を抱く。それでも彰との関係を断つことはなく幸せな奏子に、辛い過去を思い出させる出来事が起きた。

 

 私は父のことを尊敬しているが、地位や名誉のある人間だと思って、自分の鼻まで高くしたことはない。
 父と母は、部屋に自分たちの表彰状や盾を飾らず、私が受賞したものだけを飾っていた。
 箱に眠らせておくだけでは失礼に思える賞も受賞しているはずだが、その数を目の当たりにしたことはない。
「ねぇ、何で、お父さんと、お母さんの物は飾ってないの?」と、中学生の頃に訊いたことがある。
 すると父は、「お父さんも、お母さんも、この家で一番大切なのは、名誉ある賞よりも奏子だからだよ。」と、言ってくれた。
 私は、そんな父が大好きで、大切な人だと思っている。そして、私も結婚をすることがあるのなら、父と母のような夫婦になりたいと幼い頃に思っていた。
 しかし、今日は生まれて初めて、ただの頭が固い頑固な親父に見える。

「ねぇ、何で、あんなこと言ったの!だって、万引きをしたのは彼じゃなくて、友達なのよ。」
「つまり、そんな友達がいると言うことだろう。」
「そんな友達は、お父さんも知っている彩乃の弟よ。じゃあ私も、そんな弟がいる人と友達ってことね。」
「一体、何なんだい?そんなに向きになって。何だ、あの彼とは、つまり交際しているのか?」

『そうよ。』
 その言葉は私の心の中で留まった。隠したいとか、恥ずかしいとかではない。父に余計な心配をかけたくないだけ。
 彼のことを良く理解していない父がその言葉を聞けば、娘に変な虫が付いたと思うだけだろう。
 それは彼への心象も悪くなるし、父の不安を誘うだけ。
 最愛の人である母を亡くして、これまでの人生を捧げたピアノまで奪われた父に、せめて私のことで悩ませたくはない。
 しかし今の私には、彰君と父を天秤にかけることはできないし、父の言いつけだとしても、今後、彼と会わないという選択はなかった。

 

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