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ラブストーリー

オクターヴ上げて奏でる[5] ラ・カンパネラ

   

「……フランツ・リストの妻は、カロリーネ。クララ・シューマンの夫は、ロベルト・シューマン。そして、……相原奏子には、僕にしてほしい。」
 ……頭の中が一瞬で真っ白になった。それが、ぼんやりとした様子で空の色に変わると、耳の奥では鐘が鳴り響いてる。その高らかな音色が青空に鳴り響いている様子が思い浮かぶ。
『あ、時の知らせだ。……』先生の言っていた言葉を思い出して、頬の力が抜けて行く。そんな緩んだ口からも、素直な言葉が出ないのが私の悪い所。
「何、それ。……そんな人の名前、よく知ってるわね。」
「いつも奏子さんの言うことは、遠まわしすぎるんだ。分からないよ。だから、正直に言うと調べたんだ。奏子さんに僕の気持ちを分かってもらうには、僕が奏子さんの言うことを分からなくちゃいけないと思って。」
 今の私を鏡に映せば、自分でも見たことが無いほど、にやけた顔をしているはず。そんなだらしない顔を見たら驚いて夢から覚めてしまう。
「他に知っている人はいるの?」
「知ってるよ。ブラムース、ドビュッシー、ラフマニノフ。……でもね、奏子さんに僕の気持ちを伝えたいと思った時、僕は見つけた言葉があるんだ。」
「何?」二人の話に、また、少しの間が空いた。その時間の流れは走りすぎて行く様子ではなく、穏やかな川の流れのように揺れて見える気がしている。
「僕はね、奏子さんのことを考えるだけで、胸が高鳴るんだ。そう、音楽で例えるなら、『五線』が僕の気持ちだとすると、そこで鳴っている音じゃない。そう思った時に、知った言葉があった。」
 もしも父と一緒に、このテレビドラマを見ていたら、私は恥ずかしくなって、その場から逃げてしまうだろう。……彼は、そんな言葉を恥じることなく、すらすらと述べている。

「『オクターヴ』上げた音が、いつも鳴っているんだ。色々と調べていた時に、その言葉を見てピンときたよ。ああ、……僕の気持ちって音楽の言葉にすると、これになるんだ。……って。だから約束する。僕の心の中では、ずっと奏子さんのことを想い続けて、この音を聴き続けるよ。」
 小さな鐘と呼ぶには、事足りぬ喜びだった。しかし、大きな鐘を思い浮かべれば、暮れに一〇八つ鳴らすような鐘しか思い浮かばないから、私の想像力には呆れてしまう。
「どうしたの?でも、そうだよね。お父さん怒ってたから。……こんなこと言われても、迷惑だよね。……」
「迷惑?そう思うなら、初めから、そんなこと言わないでよ!今更、全部無しにされる方が、よっぽど迷惑よ。」
 きっと私は彼のように、自分の気持ちを素直に言うことはできないだろう。
 それでも私の心の中では、彼と同じ音が鳴り続けている。それだけは止まさないと心に誓った。

 

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