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ラブストーリー

オクターヴ上げて奏でる[5] ラ・カンパネラ

   

 一夜明けた朝、彩乃から電話があり、崇君は二日前から帰宅していないらしく、連絡も取れないと震えた声で話していた。
 彰君にそのことを伝えると、今日は学校を休んで探してみると言っている。
「私も、一緒に探すよ。」
「駄目だよ。それで学校を休んだりしたら、またお父さんに心配をかけてしまう。僕が見つけるから大丈夫。」

 今まで毎日、当たり前に一人で乗っていた満員電車の中が、物凄く切なくて不安に感じる。
 友達のことで悩んでいる彼を思うと切なくて、妙なことに巻き込まれないかと不安で、満員電車の人混みに心まで押し潰されてしまいそうだった。
 朝の教室には彩乃の姿も無かった。一時間目が終わり、彩乃のポケベルにメッセージを入れると、今、お母さんと警察に来ていると返信があった。捜索願を出したそうだ。
 
 私のピアノを指導する女教師は、『《ラ・カンパネラ》を弾く意味ができた。』と伝えたら、とても喜んでいて指導にも熱が入っていた。
 私も、この難曲をコンクールまでにものにしたいと思い、力が入っていた。技術だけじゃなくて、彼のことを想いながら弾くのだと。……ただ、今日は力が入りすぎている、気持ちが他所へ行っているように聴こえると、指摘を受けるばかり。
『アトデTELスル』と、ポケベルに送られた彰君からのメッセージを見て、そのことを待つばかり。
 
 そして夕方を迎えても彼からは連絡が来ることがなく、いつものようにピアノ教室でレッスンを受けていた。
 レッスンを終えると、先生は物思わしげな様子で話をしてきた。
「奏子ちゃん、……実はね、今日、奏子ちゃんに会って話をしたいって人が来ているんだ。だから、ちょっと待っていてもらえる?」
 何を考えることもなく、ただ首を振って返事をすると、先生は部屋から出て行った。私は、何よりも彰君が気掛かりでならなかったから、連絡がくるのを待つばかり。
 万引きの時のように、悪いことに巻き込まれていないか不安に思っていると、ポケットに入れていたPHSの振動に気が付き、すぐさまに耳を当てた。
「もしもし、大丈夫、変なことに巻き込まれてない?」
「あ、奏子さん。大丈夫だよ。でも、まだ崇とは会ってないんだ。……」
 無事でなによりと思いながら息を吐くと、部屋のドアノブが音をたてた。 
「あ、ごめん。ちょっと後でポケベル鳴らすから。」
 慌ててポケットにPHSを仕舞うと、先生が連れてきた男を見て青ざめた。……それは私に、あの忌々しい行為をしてきた、柳さんの姿だった。

 

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