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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

怪盗プラチナ仮面 25

   2018年1月9日  

 諸事情から我ら兄妹芸人は「裏技」を使った。これが大当たりし、俄然売れっ子になったのだが……。

 

 

フランクフルト

 

 客席の中にシャルロッテ・ミュラーの姿を初めて意識したのは、女学校の級友らしい少女二人と一緒の時だった。しかしその後一人で来るようになり、連日姿を現すこともあった。容姿といい身なりといい、育ちの良さは一目瞭然だったのだが、ステージに向けてくる視線の無遠慮なまでの熱さから、少なくとも貴族の娘ではあるまいという印象を受けていた。

 彼女が何者であるかは、日を置かずに明らかになった。
 

 5月も下旬になったある晩、市参事会員のオットー・ミュラーが、ステージ終了後の楽屋に娘のシャルロッテを伴って挨拶にやってきた。

 紡績業の起業家として財を成し、フランクフルト市の参事会員まで上り詰めたミュラー氏はこの時52歳。引き締まった長身、銀髪や口髭といったパーツが一体的に演出された気品ある顔立ち、これらによって市の要人にふさわしい風貌をものにしていた。座長のシュティヒははた目にも見苦しいほど卑屈な態度でこの有力者を出迎えたのだが、参事会員の関心はマレーネに集中していた。

 ミュラーは10歳になったばかりのマレーネを自分の正面に座らせて「実に見事だった」「よくその歳で」などと遠慮もなく賞讃した。座長から接待を命じられた芸人たちは一様に引きつった愛想笑いを浮かべるばかりで、保護者である吾輩が口を挟まないわけにはいかなくなった。

参事会員コンスル、過分なお言葉ではありますが、なにぶん妹は未熟者でございますので」
「おっと、これは失礼した。芸術家に慢心の種を植え付けるほど罪深いことはないと分かっているのだが、口が先走ってしまうのが悪い癖だ。許されたい」
「いえ。ご贔屓に与かりまことに恐縮です」

 ミュラーは義兄である吾輩に如才ない笑顔を見せてしきりに頷いた。来客用の椅子で足を組んだ参事会員がハバナ産のシガーを手に取ると、シュティヒは流れるような動作で燭台の蝋燭に火をつけ、賓客が口に咥えるのと同時に火を差し出す。その素早さと完璧なタイミングは一芸の域に達しているとも言えた。

 それまで黙って父の後ろに立っていたシャルロッテが、その時初めてマレーネから吾輩の方に目を転じた。

「今日も素晴らしい芸術を見せていただきました。お兄様のお力も大きいのでしょうね」
「いえ、私は特に。……妹に与えられたささやかな賜物です」

 吾輩は内心の動揺をぎごちない微笑で押し隠した。参事会員令嬢は「見え透いた嘘をおっしゃいますわね」と目で言っていたからだ。
 

 

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