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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

怪盗プラチナ仮面 25

   2018年1月9日  

 
 もしかして、種を見破られたのだろうか?

 そうだとすればただ事ではない。大道芸に限ったことではなかろうが、舞台に立つ者にとって熱心な客というのはありがたいのと同時に、油断のならぬ相手でもある。吾輩はシャルロッテの真意を知りたくなった。

 ミュラー参事会員は娘を振り返って「お前のご執心も少しは満足できただろう?」と笑いかけた。すかさずシュティヒが「お嬢様には大変なご贔屓に与かりまして!」で始まる下手なお愛想を奔流のように並べ始めた。

「いえいえ。女学校3年にもなりますと、覚えんでもいいことばかり達者になりましてな。ではロッテ、そろそろお暇しよう」
 

 参事会員父子が引き上げた後、マレーネは一人でシュティヒに呼ばれた。そして戻ってくると開口一番に「あいつバカよ!」と吐き捨てた。座長が「大事なお客の前でその仏頂面は何だ!」と頭ごなしに怒鳴りつけたので、言い争いになったのだという。

「私言ってやった。『気持ち悪い笑い方をしたら鏡が割れるでしょ』って」
「鏡が割れる?」
「そう。ママに教わったもん」
「シュティヒは何て言ってた」
「『うちの鏡はその程度で割れたりゃせん』だって」
「ドイツの鏡は丈夫にできてるんだろ。それよりさ、お前が出る時には俺は企画役に徹しようかと考えてるんだが」
「ほんとに? 私が好きなようにやっていいの?」

 マレーネの幻術師としての成長は目覚ましかった。だからステージは彼女に任せた方が安全だろうと判断したのだ。もはや吾輩が裏方で幻像を操る必要性は薄れていたし、何よりも仕掛けを見破られたら取り返しがつかない。

「いいさ。ただし、筋書きは俺とお前で事前に相談してきっちり決める。即興は無し。どうだ」

 マレーネは不満顔になった。10歳の少女を「芸術家」と持ち上げることで、参事会員は心ならずも慢心の種を植え付けてしまったのである。

「そんなのつまんない。その場の受けがいいかどうかで、やることを変えた方がお客も喜ぶよ。それが芸術ってもんじゃない!」
「おい……芸術より小学校で勉強する方が先だ。忘れるなよ!」

 学校の話をすればマレーネは静かになる。そのあたりはまだ10歳だった。ただ、一座の稼ぎ手でもあったから、本格的に学校に通わせることについてシュティヒはいい顔をしなかった。それでも吾輩は、彼女の将来を考えれば今のスケジュールは児童への過重労働だと主張し、週5日の出演を2日に減らさせた。

 問題は収入減をどうカバーするかだった。そこでマレーネの代わりに、仮面を着けた吾輩が着ぐるみを纏ってステージに出るというアイデアが浮かんだ。これなら正体も種もばれずに済む! というわけで、かねがね幻視者のヴィジョンに映っていたものを参考に、擬人化されたネズミの着ぐるみを小道具方に作ってもらった。

 そう、20世紀には世界中を席巻することになる、あのネズミのキャラクターだ! 吾輩は下手な絵まで描いて、着ぐるみのデザインにあれこれ注文を付けた。

 何しろ、近い将来には一世を風靡すると分かりきっているキャラを 参 考 に 作ったのであれば、受けない方がおかしい。そして肝心のイリュージョンもきたるべき新世紀にふさわしい内容にしたから、子供たちにバカ受けするのは必然だった。発生前まで遡って権利を主張できない、これは著作権の大いなる盲点だったわけだ! もちろん、いくらか良心の呵責が伴ったことを否定はしない。

 連日、舞台の始まる前には子供連れの客が出入り口に長蛇の列を作り、ステージ上で着ぐるみを着けた吾輩は黄色い歓声と暑苦しさの中で精神を集中するのにひと苦労だった。入学したての小学校でマレーネが盛んに宣伝した効果もあったのだろう。当然マレーネも自分の衣装を欲しがり、ウサギの着ぐるみ姿で舞台に立つようになった。これもまた人気を博した。
 

 

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