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ラブストーリー

君がいない世界なら、僕は生きていけない・1

   

 スクランブル交差点ではそれぞれが俳優と女優を演じて物語の主役になっている。

 信号は青に変わった。一斉に多くの人が四方八方から行き交うのと同時に俺と彼女も気をつかいながら進行する。笑顔を浮かべながら肩をしまうように避けなければならない。それでも肩をぶつけながら通り過ぎる。

 しかし誰一人として喧騒になるような衝突はない。なぜなら全員がごきげんだからだ。ひどい混み具合も気にならない。この日の男女はすべてが特別な時間を生きている。

 クリスマスイヴ・ナイト。

 隠れようとしても無駄だ。スクランブル交差点を中心に広がりをみせるように辺りは明るく照らす街燈やらネオンの点灯によって真昼のように明るい。

 誰の目でも一目でわかる。孤独な存在はここでは異質であるからだ。

 青白い顔でサンタクロースの赤いとんがり帽子をかぶり、上下皮素材の服を着て黒ブーツを履いている。男は両手をジャケットのポケットに入れて眼球がきょろきょろとさ迷っていた。ガムをくちゃくちゃと耳障りな音を織り交ぜながら、歯を剥きだしにして歯ぎしり混じりに噛んでいる。

 ナンパか、目ぼしい孤独な女を物色しているのだろうとすれ違うカップルが嘲笑っていた。

 警戒に値するその形相。男は佇みながら、なにをするでもなく交差点を視界に入れている。

 口角は吊り上がる。まるで糸で引っぱっているようにだ。その異様な形相で男は交差点を睨みつけていた。まるで獲物でも見つけたかのようにブーツの底を鳴らし乾いた空気を裂く。どうやら獲物をみつけてほくそえんだようだ。

 歩みを進めるにつれ、ジャケットのポケットから手をだした。

 赤いとんがり帽子をかぶった男はカップルの男と肩がぶつかった。

 男は一睨みしてぶつかった男に右手を伸ばした。その手には黒い見慣れない形状をしていた。

 今宵、物語の主役となる男女に敵意の眼差しをむけていた。青白い顔の赤いとんがり帽子をかぶった男はニヤリと笑った。

 女は恋人が交差点の真ん中で崩れるように倒れてしまったことに混乱していた。

 なにが起きたか理解できず女はその場でしゃがみこむ。顔を覗くと恋人は目を開いたまま突っ伏せになっていた。愛する彼氏に声が届かない。

 女は震えていた。

「どうしたのよ、いったいなに?」

 そして何が起きたか気づいた。

 サンタクロースの衣装にも似た真っ赤な鮮血が彼の体から流れていた。揺する彼の身体に触れていた女の手には彼の命の色が染まっていた。

 彼は死んでいた。

 女は助けを求めるため行き交う人々に顔を上げた。賑わう人々や、クリスマスソングが店のあちこちから流れて、騒音奏でる音符がぶつかりあい、それは反響し、女のか細い声では神にも届かない。

 それでも一人の男だけは見下ろし、女の目を見つめていた。

「お願い、助けて」

 女の訴えを男は嘲笑う。高らかに笑いはじめた。

 目を丸くさせる女は狂気じみた眼前の男の異様さに、やっと理解できた。赤いとんがり帽子をかぶるこの男が、恋人を殺した犯人である。

 一目瞭然だった。佇む男の右手には黒光りするものが、ネオンの明かりが反射してまるでカメレオンのように変化していたが、それはまちがいないものを握りしめていた。

 ピストル!

 女はギョッと蒼白したまま腰が抜けて動けなくなった。自分も殺される。見覚えのない男が彼を殺した。それはつまり無差別犯罪を犯している。

 ぶるぶると震えはじめているのは冬の寒さからではない。女はまちがいなく死の世界を視野に映しているだろう。

 

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