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ラブストーリー

オクターヴ上げて奏でる[6] きらきら星

   

 家に引きこもり、真っ白な三日間を過ごしていた。その白は純白ではなく、ただの無。当てはめるような言葉もないから、せめて綺麗な色でも思い浮かべたようなもの。
 あの公園で崇の話を聞いていたからと言って、金を貸せたわけでもないから、彼が辿り着く死までの通過点に、僕は何をしたのかと言うだけのことかもしれない。
 だが僕の行いは、彼の残り数時間の命に、息を吐く間も与えなかった。
 
 崇の葬式が原田家で行われた。最後の姿だけは、きちんと見届けたかった。
 参列者は棺の中に眠っている崇と同じ制服を着た者が大半だが、中学校の同級生や、彩乃さんの学校からも来ている様子。
 その参列者の中に奏子さんの姿を見つけると、目を逸らして、彼女は今ここにいないと自分に言い聞かせた。
 
 棺の中の崇に目を向けると、殴られた顔が別人に見えるほどで、丸みを帯びた痛々しい顔に真っ白な化粧がしてある。
 そんな崇の姿を目の当たりにして涙を零すことが、僕には許されないと思っていた。白く塗られた顔を拭えば、僕が与えた痣もあるかもしれないと思うからだ。
 遺族席に目を向けると、彩乃さんの姿が見えた。一例する際にはハンカチで押さえていた目を僕に向け、優しく微笑んでくれていた。
 遺影に向けて手を合わせるが、『ごめんな』と、それ以外の言葉が思い浮かばなかった。額の中では笑っている崇だが、きっとどこかで僕を睨んでいる。この場所の何処か、僕を見ている崇がいる。
 焼香を済ませると参列者に奏子さんの姿を見つけたが、知らぬふりをして横を通り過ぎた。

 参列者の全員が崇に別れを告げ終えると、黒塗りの車が棺を迎えに来た。崇のお母さんが遺影を持って立っている。その隣で彩乃さんは息を荒くして泣いていた。
 込み上げる涙を、ぐっと堪えた。涙を流す姿を崇が見ていたら、きっと僕を調子のいい奴だと思って、唾を吐き付けるだろう。
 ゆっくりと棺が運ばれる中、どこからともなく音が聴こえた。……ピアノの音だ。……
 その音には彩乃さんも涙を止めて、驚いているのを見た。
 その隣にいる崇の両親も、唖然とした様子で二階の窓を見つめている。
「何、何?」
 騒めく人々の真上には、この場には不釣り合いな軽やかなテンポの曲が流れている。僕にはその曲が、あの学園祭の日に崇が弾いていた、モーツァルトのきらきら星《きらきら星変奏曲》だと、直ぐに分かった。
 そして、こんな真似をするのが、僕の知る人で彼女しかいないのも直ぐに分かった。……相原奏子、彼女だけだと。
 確かに僕は、彼女の弾くピアノが好きだ。人の心を掴んで虜にする。
 その音に魅了されて、聴いていると幸せな気持ちになれる。辛いことや苦しいことも、そのメロディーと共に流れてしまう。……そんな彼女を、やはり僕は愛している。
 けれど、辛いことや悲しいことを、全て流せばいいわけじゃない。
 だから、今日ばかりはやりすぎだ。この音が憎らしい。……
 あの窓の向こう側、彼女が僕等に笑えと言っているようで、憎らしい。

 

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